6. ミヤモトツネイチ的・シバリョータロー的考察ごっこ
土曜日の午前中、フォール・ド・フランスからサン・ピエールに移動中、教会に向かう人々の群れに出会う。
どの人々も白が基調になった「晴れ着」的なコスチュームに身を包む。何か特別な祭事でもあったのか、それとも、教会には晴れの姿で、という昔の習慣が生きているのか。


……それにしても、この島にはほんとうに人が多い。険しい山岳地帯を除き、どこへ行っても人と車でいっぱいである。
今回の旅を終えて気がついたのは、旅行の日数と行き先の珍しさの割には、意外に写真が少ないということだった。

最大の理由はその 人と車でいっぱい ではなかったか。

車で走行中に写真に納めたいものが見つかっても、駐車の場所とタイミングがなかなか取れない。また、人が多い場所で写真を撮るのはそれなりに神経を使うことで、ついつい遠慮してしまう。


マルチニークでもっとも印象に残ったことのひとつは、家の建ち方だった。

左の写真、フォール・ド・フランスのような都市部はともかく、田舎のかなりとんでもない高所まで、へばりつくように家々が密集している。

まあ、そんな所はたいてい景色が良いので、最初は別荘か貸しコテージのようなものかと思っていた。

ところがそんな家々もよく見ると、庭先にヤギやニワトリを放ってあったり、テラスに古ぼけた道具類がほったらかしてあったり、つまり普通に生活している市民の家なのである。

このへんで、ひとつの疑問が湧いてくる。


……この小さな島にこんなにたくさん人がいて、彼らは一体どうやって食べていくのか?


これだけの人が収入を得るための労働の場が、この島のどこにあるのか?
ある程度規模の大きい工場や農場は見かける。もちろん観光産業は一大産業だし、人が多ければ商業活動も盛んである。


しかし気のせいか、老若問わず昼間っからブラブラしてる男性が、妙に目立つような気が……
(こういうのって、世界中なぜか常に男性)

まあ、日本だって田舎に行けば、そんな「寅さん」みたいなおっちゃんはいるものだし、なんとな〜く食べて行けるのかな。パパイヤ・バナナ成り放題の熱帯だもんな…………という程度に考えてたのだった。

しかし、またもや考える。

この島は意外に物価が高い。
手許にあるレシートによると、スーパーで買った何の「こだわり」もないバゲットが1本で1.20ユーロ。これがフランス本国だったら、1ユーロはしないんじゃないかなあ……

他の食料品も高く、何もかもが本国価格の2〜3割増しのような感じがする。
(2009. Sep 追記:本国では大量生産品のバゲットはほとんど0.50ユーロ以下。さすがに驚いた)

そもそも店で見かける食品・生活必需品は、フランス本国のライフスタイルに従ったものばかりだ。種類豊富なチーズ、肉類、加工食品……まあ、ここではともかく、青果類に寒冷地のものが目立つのは奇異な感じがした。

加工品の多くはフランスのメーカーのもので、パッケージを裏返して見てみれば、生産地はフランス本国だったり、「欧州の工場」アイルランドあたりだったり。

これらの品々は当然ながら輸送費がかかるので、高い。

確かに、マルチニーク島の産物で40万人の口を養っていくのが無理だというのはわかる。バナナとパパイアだけで生活できるものではない。必需品のかなりの部分は、島の外から求めるより仕方がなさそうだ。

ならば、近隣のカナダや米国、メキシコあたりから品物を買えばいいと思われるのに、そうならない。

マルチニークがフランス本国から高いものを買わされる一方で、本国もそこそこのおカネを島につぎ込んでいるらしい。たとえば、グラン・リビエールほか島の至る所で見かけた大小の公共事業。

……とすると、なんとな〜く見えて来るのは、フランス本国に依存した---というか縛りつけられた、ヒモちっくな経済構造。

つまりこれが「植民地」なんだろうかねえ、と、2号車メンバーの間では買い物の度に話題になるのだった。

★ ★ ★ ★ ★

今回のマルチニーク滞在は2009年1月31日から2月7日(の早朝)までだったのだが、旅の終わる2〜3日前から、町のガソリンスタンドが妙に行列するようになった。

どこもかしこも10台以上待ち、時には20台以上にもなり、スタンドから溢れて道をふさぐ始末である。

教授様もやはり気になったらしく、なんだろう、来週からガソリンが大幅値上げにでもなるのか?などと話したりもしたが、まあそんなものかね、程度に思ってその時は終わった。
(……ので、写真はない)

実は日本に帰ってきてインターネットのニュースを見るまでまったく知らなかったのだが、私たちのマルチニーク滞在中から、すぐご近所のフランス領グアドループ島で、物価高と高い失業率、それを放置する政府に対する抗議のゼネストが行われていたという。

そして、私たちが帰国した翌日の2月8日から、グアドループ島に同調したゼネストがマルチニーク島でも始まったのだ。
(マルチニークを離れる最後の最後まで、翌日からゼネストだなんて知らなかった)

ニュース記事によれば、全交通機関・公共サービス、それに商工業、観光産業の大部分が機能停止。私たちが見たガソリンスタンドの大行列は、ゼネストに向けた買い溜めのためだったのである。

ニュースには、島を出る手段がなく、既に数日間にわたって足留めを食った観光客のインタビューも出ており、私たちの間では
「もう1日遅かったら私たちもこの中の1人。おおっぴらに長期休暇が取れたかもねえ」
などとジョークも出た。


それから更に10日以上経った2月下旬、Google ニュース(ドイツ語)で、偶然こんな見出しがトップになっているのを見つけた。

「ストライキ?暴動?ついに死者:物価高への怒りに煮えたぎるフランス領カリブ、不満の根は深く」

"Streik, Randale ? und ein Toter: Auf Frankreichs Karibikinseln kocht der Volkszorn fuer hohe Preise hoch, doch der Unmut hat tiefere Ursachen."
(Hannoversche Allgemeine Zeitung 26. Feb.)

日本のニュースでは、フランスの海外領土なんてローカルな土地で起こった事件はほとんど報道されない。それもあり、悲しいかな、しばしばインターネットで「マルチニーク」に注意を向けていたのに、事態の悪化に気づいたのはかなりの時間が経過してからだった。

インターネットのおかげで世界が近くなったというのは錯覚かもしれない。ネットの世界でも、まだまだマルチニークは遠かった。

苦労しながらドイツ語・英語の報道記事を片っ端から読んで、はじめて知った。マルチニーク島の現実は決して南国の楽園ではなかった。

穀類などの生活必需品価格がフランス本国の100〜140%ほどにもなるのに、平均収入はせいぜい本国の80%止まり。資料によってかなりばらつきがあるが、失業率は20〜25%(25歳以下に限れば50%台)。

これはEU加盟諸国を更に地域別に分類した中で、最低レベルである。

ゼネストの本来の目的は、生活状況の改善要求というごく具体的なものだったと思うのだが、フランス本国政府が経済援助目的の支出をいくつか決める一方で、海外県住民側からは "Beke"「白人(のご主人)」という言葉に象徴される人種差別感情や、本国への心理的距離感というような漠然としたものへの不満も表明されていた。

心理的な不満には絶対的な解決策など存在しないから、難しい……


2月、上記の報道見出しの段階で死者が出ていたのはグアドループ島だったが、3月に入ってからマルチニークでも死者が出た。パソコンのモニタに映し出されるのは、自分たちも何度となくそこを通った、フォール・ド・フランスの外周高速道路上で炎上する自動車。

フランスの官製地図サイト"Geoportrail"は、海外県の大縮尺地図の表示を停止してしまった。便乗騒ぎを起こそうとする不届き者に地図が使われるのを防ぐためと思われた。

報道記事に、ゼネストは若者たちの単なる破壊衝動の発露に移り変わりつつある、というような突き放した感じのものが増え始めた頃、たぶん日本語で書かれても良くわからないような政治がらみの記事も増え始めた。

3月半ば頃から仕事が忙しくなり、しばらくニュースのチェックをしなかったが、その後気がついたら、(おそらく)3月23日頃に事態は終結したらしい。

現在は4月下旬。
自分が普段チェックするようなニュースサイトではフランス海外県に関する報道はぱったりと止み、たまに観光関連のニュースが出るだけになってしまった。

今頃はどうなってるだろう……


蛇足:

今思えば、滞在中に目にした現地の新聞には、毎日のように「グアドループ Guadeloupe」という文字が一面トップに刷られていたし、かのガソリンスタンドの行列のように、現地の人たちも特別な雰囲気を放っていたはずだが、そこから何かを事前に知るということは100%できなかった。
そもそも「今思えば」なんて、起こったことを後で知ったから言えることで……)

現地の事情を理解するには、

・現地の言葉を話す
・もしくは、自分と共通の言語を理解する非観光産業従事者や、大学レベルの学生と話す

↑上記2つがほぼ必須条件である。
……が、今回はそういう機会が全くなかったら、実際に何もわからなかった。
ちなみに外務省(日本)の海外渡航情報ページには、フランス領カリブでの騒動に関する情報は一切掲載されなかった。


最後に マルチニーク島とプレー火山に関するリンク集>

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