トゥオイ谷レッキング ランク★★☆
ウルスリとフルリーナのまきば
目次へ ホームへ
▲前のページへ ▼次のページへ
グアルダ(1653m)〜アルプ・スオット(2018m)〜アルプ・スーラ(2118m)〜ムルテラ・ダドゥラ(2142m)〜ムントナウス(2077m)〜ムント/ムンダディッチュ(1858m)〜アルデッツ(1464m)
地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 SILVRETTA (Blatt 1198)
コース概況:
 所要時間はグアルダからアルプ・スオットが約1時間、アルプ・スオットからアルプ・スーラ約1時間、アルプ・スーラからムントナウス1時間〜1時間15分、ムントナウスからアルデッツまで1時間。

 日本でもよく知られているアロワ・カリジェの絵本『ウルスリのすず』『フルリーナとことり』の舞台のモデルになったグアルダ村と、村の放牧地であるトゥオイ谷を歩く。コースのかなりの部分は放牧関係者用の車両が入れるようによく整備された道で非常に歩きやすいが、途中、アルプ・スオットから先に道が一旦途切れる場所がある。この区間はかなり厄介な湿地になっている上、いくつかの川に断ち切られた小さなテラスが連続し、ルートがみつけにくい。泥まみれになりたくなければしっかりしたトレッキングシューズと地図必携。

 もっと楽に歩きたい人、あるいは逆にもっとしっかり歩きたい人向けに、2種類のバリエーションコースをページ末尾に追記した。

地域図はこちら
コース詳細を写真で見る SimpleViewer by Airtight

 まず、レーティシュ鉄道グアルダ駅は、列車内にある停車ボタン(「Halt」と書いてある)を押すか、あらかじめ車掌さんに知らせておかないと停車しないので注意しよう。駅からは郵便バスで急坂を登ること10分、今日のスタート地点であるグアルダの村に到着する。駅と村との標高差は200m以上、南向きの斜面に広がるテラス状地形の上に乗っかった、日当たりのいい山村だ。

 エンガディン一帯には、スグラフィットの施された重厚な壁やバロック式の小さなファサードを持つ、伝統的な造りの家々が立ち並ぶ村落が数多くあるが、グアルダもそんな村のひとつ。歩き出す前に、少し時間を取って村内を見物すると良いかもしれない。

 村の中の標識で「Chamanna Tuoi(トゥオイ小屋)」方面を確認して歩き出そう。村を抜けてからしばらくは、山登りをする人が一番嫌がる舗装された急坂の登りだ。高みから見下ろすグアルダの村の風景はなかなか良いので、しばらくの間我慢しよう。やがて明るい針葉樹林に入ると、道は踏み固められた砂と石になり、次第に傾斜も緩くなって歩きやすくなる。道沿いには時折、ウルスリやフルリーナのイラストをあしらった標識が出てきて楽しい気分になる。

 針葉樹林と草原を出たり入ったりしながら、緩やかな上り坂をどんどん谷奥へと進んでいくと、次第に谷底が広がっていき、周囲は典型的なU字谷の風景に変わってくる。歩きはじめて40〜50分ほどで樹林が終り、道は広大な草原の中へ入っていく。このあたりまで来ると、正面にはピッツ・ブイン(3312m)の堂々とした姿も見えるようになる。森林が途切れてから10分程度で、第一の目標地点、アルプ・スオットの放牧小屋が見えてくる。

 小屋の手前に標識があるので、「Alp Sura(アルプ・スーラ)」の表記に従い、右の道に入って坂を登ろう。100mほどで小さな沢を横切り、更に100mほど行くと、再び分岐がある。左に行くと放牧小屋、轍のついた道を直進すればスイス・アルペンクラブ(SAC)のトゥオイ小屋、右の斜面に向かって登っていく踏み跡がアルプ・スーラへの道になる。

 踏み跡の道はなかなかの急斜面で、これまで平坦な道に慣れてきた足には少々きつく感じるかもしれない。エンヤコラという感じで5分ほど斜面を登っていくと、踏み跡が途切れ、ぐちゃぐちゃした湿地帯に入る。このあたりは小さなテラス状の地形が重なり、どの方向に進んでいいものか迷うかもしれないが、できるだけ靴が泥に潜らない場所を選びながら、地図通りに斜面をトラバース気味に進む。やがて沢に行き当たったら、右岸でも左岸でも良いので、それに沿って登っていこう。少し登ると乾いた道に出るので、あとは白地に赤のペンキ印のついた岩を探しながら、今度は谷の出口方向に向かって進んでいく。ここから先はしっかりと道がついているので、写真でも撮りながらのんきに歩くと良いだろう。周囲は急斜面に広がる牧草地で、牛のほか、この地域に多い羊の放牧風景が見られる。

 アルプ・スオットの分岐から40〜50分ほどで小さな放牧小屋に出ると、そこからアルプ・スーラまではしばらくの間、轍がついた歩きやすい道になる。ここから先はときおり放牧関係の車両が通行するので注意。20分ほどでトゥオイ谷の出口にあるアルプ・スーラの放牧小屋に到着する。ここはトゥオイ谷におけるグアルダ村の放牧拠点で、小屋からグアルダ村までの標高差450mほどの斜面を、牛乳輸送用のパイプラインが結んでいるそうだ。

 アルプ・スーラからはトゥオイ谷を出て、エンガディンの本谷に沿った斜面を歩くようになる。最初に標識で「Murtera Dadoura ムルテラ・ダドゥラ」を確認して歩き出そう。道は放牧車両用の道を離れ、柔らかい草が靴底に気持ち良い山道になる。

 草原の広がる緩い尾根を越え、浅いカール状の地形に入っていくと、周囲の雰囲気がやや変わり、次第にガレが目立つようになって来る。ただし草付きも多く、歩きにくい部分は特にない。この斜面には比較的珍しい植物が多いそうなので、もしも高山植物に興味があったら、岩の間に根を下ろす高山植物のパッチをよく観察してみよう。ちなみに筆者が歩いたのは秋だったが、ブルーベリーの仲間の紅葉(草紅葉)の素晴らしさはこの地域でも指折りと思われた。時期が丁度合えば、ここでブルーベリーやクランベリーを採集して食べることもできる。

 小さな沢を横切ったあたりがムルテラ・ダドゥラ。斜面上を見上げると、割合遠くなさそうな場所にちいさな小屋が立っているのが見える。スイス・アルペンクラブのクラー小屋で、付近には小さな湖などもあり、夏場はトレッキングの良い目標地になるそうだ。クラー小屋への道はここで分岐する急坂を登っていくが、今回はそのまま平坦な道を選んで直進する。

 このあたりはアップダウンも少なく、エンガディンの谷の展望良好な楽しい道だ。秋であれば草紅葉の紅と落葉松の金色、そして日本だったらハイマツに相当する感じのねずの木の濃緑色のコントラストが美しい。風景を楽しんでいるうちに、放牧小屋のあるムルテラ・ダダイントMurtera Dadaintを経由し、ムントナウス Muntraus まで来る。この区間は小道がいくつも分岐しており、眼下にムント Munt の集落が見えているので、集落に向かって適当な道を選んで下り始めればよい。ただし、ここで注意しなければいけないのは、うっかりタスナ谷 Val Tasna 方面への道に入ってしまわないこと。地図上では今日の終点になるアルデッツへの近道に見えなくもないが、地元の人によれば、このルートはコンディションが悪いために非常に苦労するそうだ。

 ムントから先は、完全に村の道になる。舗装道路でもハイキングルートでも、好きなルートを選んで終点・アルデッツの村まで一気に下ろう。アルデッツの村は、グアルダとはまた少々違った趣の民家が軒を連ねている。壁画などもなかなか美しいものがあるし、村の礼拝堂も興味深い。電車の時間を待ちながら見物して歩くと良いだろう


バリエーション1:
アルプ・スオットへ登らず、トゥオイ谷奥のどん詰まりにあるスイス・アルペンクラブの山小屋、トゥオイ小屋 Chamanna Tuoi (2250m)へ行くのも良い。この小屋は「ミニ・マッターホルン」ピッツ・ブインの眺望が良く、軽食も取れる。道の整備状況が良いので、靴はウォーキングシューズ程度で大丈夫。コースタイムはグアルダ村から往路2時間半、復路2時間

バリエーション2:

アルプ・ダドゥラから先、時間に余裕がある時にはクラー小屋 Chamanna Clar (2476m)まで登り、ムント・ダル・ホルン Munt da'l Horn を経由してムンダディッチュ〜アルデッツへ降りると良い。途中には美しい湖もある。コースタイムは本コースよりプラス1.5時間程度。
夏場は特におすすめで、トゥオイ谷を省略してグアルダから直接クラー小屋まで登り、アルデッツに降りるだけでも充分楽しめる。

※2つのコース情報は筆者と同行した地元のご夫妻より。実際に歩く場合、所要時間は15分ほど多めに見積もったほうがいいかもしれない。

このコースに関連するロマンシュ語
god, guaud
val
prada 牧草地、草地
palu¨ 湿地
gonda ガレの斜面、ガレの押し出し
motta, mot, muot, cresta
chamanna ヒュッテ、小屋
murtera 放牧地
dadoura 外の(a¨seserer)
dadaint 内の(innerer)
※注 dadouradadaintの関係は曖昧で、ドイツ語のhinとherのようにしばしば主体と客体が入れかわるらしい
典型的なエンガディン式の家が立ち並ぶグアルダ村の中心部。ちょうど日本の「白川郷」のような感じで、地元スイスではかなり知名度が高く、昼頃になると観光客でにぎわう
最初はこんな感じで針葉樹林と草地が交互に登場する。道は踏み固められていて歩きやすく、谷の最奥にあるトゥオイ小屋まで行く家族連れやお年寄りも多い
モレーンの下にアルプ・スオットの小屋が小さく見えてきた。本来なら背景左側に見えるはずのピッツ・ブイン(3312m)は、残念ながら雲の中
湿っぽい草付きの急斜面を登っていくと羊の群れ
もうすぐアルプ・スオット。夏だったらこのあたりは一面のお花畑
アルプ・スオットからはエンガディンの本谷に出る
ムルテラ・ダダイント付近。赤い草紅葉はブルーベリー(ヘイティ、ハイデルベール)。摘んでクリーム和えやジャムにして食べるが、シーズンにはちょっと遅かった。残念
上の写真と同じあたりからエンガディンの谷を見下ろす。何本もの道が谷底へ続いているので、適当に気に入った道を見つけてアルデッツ方面へ下り始めよう。筆者らは正面に見える森の中を通る道を選ぶことにした

      

森の中では「地面から生えてきた根っからのスイス人」が冬支度の真っ最中。
秋色深まるムントナウスの村
関連:
山ノボラーのための ロマンシュ語ミニ辞典

記録:2005年10月中旬