サンモリッツからマロヤ Maloja 行き郵便バスに乗り、シルヴァプラナ Silvaplanaで下車する。バス通りをマロヤ方向に向かって少し歩くと、右手にSilsと書かれた標識がある小道が出てくるので、そこに入っていこう。針葉樹の林の中を、道なりに行くとすぐに道が2つに別れるので、そこは左へ進む。ここから先はしばらく、あまり視界の良くない針葉樹林の中のダラダラ登りになる。
20〜30分ほど行くと、斜面下手の林がやや開けるようになり、シルヴァプラナ湖とコルヴァッチュの姿が望め、ちょっとホッとするところ。この先すぐに、左に分岐する道がある。ここを入るとシルヴァプラナ湖の口のところで車道に出るが、とりあえずまっすぐに進もう。やがて道はゆっくり下って、シルスの集落の手前で車道に出る。
マスを釣る人がぽつぽつ散見される川に沿った車道を、集落に向けて10分ほど歩くと、シルス Sils の集落の入り口に着くので、ここを左に曲がる。すぐにある集落は、シルス・バセリア。コースの前半を省略するときはこの辺でバスを降りて歩き出せばよい。
シルス・バセリアの集落には気楽に過ごせそうなホテルや民宿、コテージが並んでいる。「次に来たときに泊まったら良さそうなところはないかな……」などと、民宿の庭のルピナスの花でも見物しながら目抜き通りを歩くと、一旦家並みは途切れ、広い草地の向こうにシルス湖が広がる。
道は再び家並みの中に入ると、こちらが有名なリゾート村のシルス・マリア。地味で庶民的な感じのある隣のバセリアに較べると、こちらは派手なカフェや土産物屋が目立ち、それはそれで楽しいものだ。時間があれば、ぜひ寄ってみるといいだろう。ちなみにこのコースは、シルス・マリアの村に入る手前で車道をそれ、右のシルス湖に向かう道に入る。
シルス湖岸へやってくると、湖に沿って、鬱蒼とした針葉樹林の中を歩くようになる。道は湖の水スレスレまで降りたかと思うと、今度は崖地をよけて上へ登ったりと、やや細かいアップダウンがある。おまけに足元は木の根がゴツゴツ張り出し、少々歩きにくいところもある。
30分ほどでイソーラ Isola の村に到着。集落の後ろ、山側の崖には、まるで大きな雨樋のような感じで川が流れ下っているのが見えるが、村はこの川の堆積物がシルス湖に押しだしてできた三角州の上に乗っかっている。ここはいかにもグラウビュンデンらしい鄙びた風情の小村で、白く漆喰を塗り固めた家屋が湖の青に映え、写真を撮ったりするにもなかなか良い所だ。小さな食堂もあるので、ちょっとした休憩もできる。
ひと息入れたら再びマロヤに向けて歩こう。イソーラの集落が尽きると、しばらく湖沿いに歩いた後もう一度小さな三角州を横切って、また道は樹林の中に入る。今度はさっきのような悪路ではない。道は湖からやや遠ざかるが、樹林が途切れがちで、正面の山々もよく見える。イソーラを出て45分〜1時間ほど、ポツポツと家屋が出てくるようになれば、もうそこはマロヤの集落。
ところで、これまで歩いてきたシルヴァプラナ湖やシルス湖から出る川は東に向かって流れ、イン川(エン川)と合流して、やがてはドナウ川に注ぎ込む。あの水は、遥かかなたのルーマニア/モルドヴァ国境で、黒海へ注ぐのである。すぐ目の前にマロヤ峠の断崖があるが、そちら側には流れ出さないのだ。
しかしここマロヤの集落で、あなたが今歩いている辺りに降った雨は、もしかしたら目の前のシルス湖=ドナウ川ではなく、西のマロヤ峠を下ってイタリアのポー川になり、アドリア海に出るかもしれない。
目の前の湖の水は東に向かっているのに、なぜ?
この集落のある平地の地形は、一見ほとんど高低差のないような部分でも、微妙かつ複雑に入り組んでいる。例えば、○○さんの家に降った雨はシルス湖に流れるが、隣の××さんの家に降った雨は、ポー川の支流のひとつである、オルレニャ川に流れ込む、なんて調子なのだ。土にしみ込んで地下水になったものに至っては、もうどちらに行くのかさっぱりわからない。(興味のある方はぜひ1:25,000地形図 VAL BREGAGLIAを見てみよう)。
話がちょっと脱線してしまった。ポスト Post の標識を探し、バスの発着するマロヤの郵便局へ出よう。
|