ちょっと寄り道
ムオタス・ムラーユからムラーユ湖 ランク★★
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ムオタス・ムラーユ(2453m)〜ムラーユ湖(2715m)〜ムラーユ谷セガンティーニ・ヒュッテ方面分岐(2368m)
地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 ST. MORITZ(Blatt 1257)
コース概況:
 所要時間はムオタス・ムラーユからムラーユ湖(レイ・ムラーユ)が1時間、ムラーユ湖からセガンティーニ・ヒュッテ/アルプ・ランガート方面への分岐が1時間。

 ムオタス・ムラーユからセガンティーニ・ヒュッテに向かうトレッキングコースは日本人に人気があるが、これだけではなんとなく物足りないという方に、ちょうどぴったりの寄り道コース。最初はお花畑のハイキング、次にカール底の静謐な湖に立ちよったら、そこから先は氷河の末端まで下り、あとは明るいU字谷の沢沿いを下って通常のセガンティーニ・ヒュッテ行きコースに合流する。短い距離だが、いろいろな風景に出会える盛りだくさんのコースだ。

 また、あんまりたくさん歩きたくはないが、氷河を間近からよく観察してみたい、花を見たい……という人には、これだけで丁度よいハイキングコースにもなる。その場合は最後の合流点からムオタス・ムラーユに戻るか、アルプ・ランガート経由でポントレジナへ下りるといいだろう。
(ハイキングの方には後者の方がおすすめ。所要時間はプラス1時間30分〜2時間程度。途中には軽食のとれる山小屋もあり、疲れた人はアルプ・ランガートからチェアリフトで町まで降りられる)

 前半は緩やかな登り、後半はこれまた緩やかな下りで、体力的な負担は少なく、危険箇所もほとんどない。ただし、このコースから続けてセガンティーニ・ヒュッテまで行く場合は、標高の関係で意外に体力と時間を消耗しやすい。中高年の方や、高山に慣れていない方は多少注意したほうがいいだろう。

地域図はこちら
コース詳細を写真で見る SimpleViewer by Airtight
 プント・ムラーユ駅 Punt Muragl のそばから出ているケーブルカーに乗って、ムオタス・ムラーユ Muottas Muragl まで行こう。※注

 ムオタス・ムラーユは、各方面へのハイキング・トレッキングコースの起点として重宝なポジション。おまけにお手ごろな標高の割に変化に富んだ眺めで人気の高い展望台だ。しばらく屋外の展望台で眺めを楽しんだあと、標識を探して Laj Muragl(レイ・ムラーユ、ムラーユ湖)/Fuorcula V. Champagna/Fuorcula. Muragl という3セットになった地名を確認し、そちらに向かって歩き出そう。

 最初は氷河の擦痕がついた羊背岩や、ガレが転々と転がるお花畑の中を行く道を歩いていく。道はなだらかな斜面の脇腹についた、ゆったりとした上り坂で、足場の悪い所はない。大勢の人々が群がって歩くセンガンティーニ・ヒュッテへの道に較べ、こちらは人もポツポツ程度で気分爽快。アルプスを代表する動物のひとつ・警戒心の強いマーモットも、このコースだったらかなり近くで見ることもできるだろう。「ピーフ、ピーフ」という鋭い笛のような鳴き声は、マーモットの警戒信号だ。この声が近かったら、立ち止まってあたりを見回してみよう。

 右手遠くに見えていたベルニナの高峰が手前の尾根に隠れて見えなくなり、しばらくすると、進行方向の谷奥にムラーユ氷河の舌状の末端が見えてくる。ここまで来たら最初の目的地・ムラーユ湖は近い。やがて、チャンパーニャ谷への峠 Fuorcula V. Champagna との分岐を示す標識が出てくるので、そのあたりから湖のそばへ下りていこう。

 氷河が押し出したモレーンにせき止められたムラーユ湖は、青緑色に透き通った水が輝く山奥の小湖。歩き初めて1時間、大休止にはちょっと早いかもしれないが、少し時間を取って湖の周りを歩いたり、おやつを取ったりするのに非常にいい場所だ。

 湖のそばの標識で「Muottas Muragl/Chna.Segantini(セガンティーニ小屋)/Pontresina(ポントレジナ)」方面を確認し、今度は谷底に向かって道を下っていこう。

 湖を出てすぐ、左手真下に、ゴロ岩にびっしりと埋め尽くされた氷河の末端が見える。氷河というのは流れ下る途上であちこちから落石を集め、ベルトコンベア状態で下流に向けて運ぶため、末端ではこんな風景になるわけだ。ゴロ岩=モレーンが幾筋もの堤防状のうねりとなって堆積していく様子は、現在の日本の山では見られない面白い光景だ。道は氷河の末端のすぐそばまで降りていくので、こころゆくまで見物しよう。

 氷河と別れ、行きの道とはまた違った種類の花が咲き乱れる沢沿いの道を快適に下って行こう。途中、放棄されたトーチカのようなものもあったり、動物と鉢合わせしたり、適当にあちこち眺めて歩いているうちに、あっと言う間に人々で大にぎわいのセガンティーニ・ヒュッテへのトレッキングコースと合流する。

 ここから先はセガンティーニ・ヒュッテへ向けて登ってもいいし、右手に見えるムオタス・ムラーユに戻ってもよし、あるいはアルプ・ランガート Alp Langard までの楽々ハイキングでポントレジナへ歩いて下ってもいいだろう。

注:
ムオタス・ムラーユへのケーブルカー乗り場へ行くには、鉄道より地域循環バスの方が本数も多いし便利。
もしも鉄道を利用する場合は、事前に車両内の降車ボタンを押すか、口頭で車掌さんに知らせないとプント・ムラーユ駅に列車が停車しない。駅でも同様に、乗車ボタンを押さないと列車は通過してしまう。レーティシュ鉄道はそういう駅が時々あるので注意しよう。

このコースに関連するロマンシュ語
muot, muottas 丘、小高い山
val
fuorcula 鞍部、乗越、=峠
laj
vadret 氷河
god, guard
Chamanna ヒュッテ、小屋
おなじみムオタス・ムラーユの展望台、ここからスタート。
歩きはじめて30分ほどで、ムラーユ氷河の末端が見えてきた。一番奥のピークはピッツ・ムラーユ(3157m)
氷河と反対を見やれば、いつの間にか周囲の植生はかなり変化し、いかにも高山らしい様相を帯びてくる。写真ではちょっとわかりにくいが、周囲はビランジの仲間(ナデシコ科)の群落。
カール底の小湖・ムラーユ湖へはここから下っていこう。筆者が訪れた時期はまだ雪がびっしりだったが……
そばまで下っていくとこんな水面が待っていた。
ムラーユ湖と氷河を離れたら、今度は谷を下っていく。来た方角を振り返れば、上方にはさっきの氷河が意外な迫力で君臨している
セガンティーニ・ヒュッテへ行く道への合流点が見えてきた。ここから先はお好きなコースをどうぞ。
関連:
山ノボラーのための ロマンシュ語ミニ辞典

記録:2004年7月上旬