トゥージスからヒンターライン行きのローカルバス、あるいはクール〜ベリンツォーナ線の特急バスに乗り、ヒンターライン・トンネル北出口 Hinterrhein, Tunnel Nordportal で下車、サン・ベルナルディーノ行きの峠越え郵便バスに乗り換える。この峠越えの線は本数が少ないので、事前に時間を調べておこう。最後にバスをサン・ベルナルディーノ峠 S.Bernardino Ospizio で下車、ここから歩きはじめる。
真ん中に小さな島のある湖に注ぐ小川にかかった橋を渡り、湖の左岸に沿って歩く。湖が終わると、道は短い間だけ車道に沿い、やがて大きく右に曲がるところで再び車道から離れ、草地の中に入って行く。周囲は氷河の擦痕のついたクジラの背のような岩と、その窪みにできた小湿地の数々。彼方にはサン・ベルナルディーノの谷が開けている。南に向かって開いたこの谷底から上がって来る風は、今まで歩いてきたヒンターライン地域の風と違い、あきらかに湿って暖かい。
ヘアピンカーブをなす車道を時折横切りながら、谷底に向かってどんどん下って行くと、何かタンクのような形をした建造物が見える。おそらくサン・ベルナルディーノトンネル関係の施設だろう。それを左手に見過ごして更に下ると、やがて周囲は草地から、ちょうど日本のハイマツのようなほふく性の丈の低い針葉樹林に変わる。この辺りは足元のあちらこちらに水が溜まってかなり足場が悪く、水のしみ込むような靴を履いているときにはちょっと困ってしまうところだ。
歩いていくうちに周囲の樹林はだんだん背丈を増し、標高1800mの上あたりから黒々とした梢の針葉樹の森に入る。筆者はこのへんから先、サン・ベルナルディーノトンネルの集落までは、自転車レース見物でずっと車道を歩いてしまったが、車道を歩かずに済むコースもあるそうなので、当然の事ながら普段はそちらを利用した方がいい。
サン・ベルナルディーノは起源をたどれば、ローマ時代にすでに峠越えの拠点になる宿場だった、歴史ある町である。残念ながら私は見なかったが、町の近くには、今でもローマ時代に舗装された街道の石畳が残っている場所があるという。
また、村には17世紀頃のものと思われる円屋根の教会や、もっと古そうな礼拝堂などもある(後で調べておきます)。峠の北から来ると、古い建物のような人工物から、周囲の植生など自然物まで、至る所にイタリアの影響を強く感じ、なかなか愉快だ。
帰りは村の郵便局から、ベリンツォーナ、クールなど各方面へのバスが出ている。また、ここを拠点に付近のひなびた谷や村を訪れるのもよいだろう。
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