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シュプリューゲン街道 その2 ランク★★
シュプリューゲン峠(標高2115m)〜ベルクゼーリ(山の小さな湖 2311m)往復〜モンテ・スプルーガ(1900m)
地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 SPLUEGENPASS (Blatt 1255)
コース概況:
 所要時間の目安はシュプリューゲン峠〜ベルクゼーリ往復が1.5時間くらい、峠からモンテ・スプルーガの村まで1時間程度。

 シュプリューゲン峠からベルクゼーリまでの登りは、途中かなり足場の悪い岩場を通る。岩がツルツルして滑りやすく、しかも浮いていて、大岩でも足をかけるとグラグラ動く。危険な個所はほんの10mくらいだが、不安だったらやめておいたほうがよいだろう。もちろん、山歩きの経験がない人は行ってはいけない。

 峠からモンテ・スプルーガの間は、下り一方の易しいハイキングコースで、しっかりした靴を履いていれば安心だ。

 このコースはスイスとイタリアの国境を出たり入ったりする。登山者はあまりうるさくとがめられないが、この御時世、抜き打ちのパスコントロールが入ると面倒な目に遭うこともあるので、絶対にパスポートを携帯しよう。そもそも歩く場所にかかわらず、何か起こったときのために、スイス山歩きの際には常にパスポート持参のこと。

地域交通概念マップ
   
 シュプリューゲンのポスト(郵便局)で郵便バスを下車したら、キアヴェンナ行きのイタリア郵便バスに乗り換える。ここから峠まではまだスイス国内だが、スイスパスなどスイスの各種割引切符は使用できない。郵便局の窓口でシュプリューゲン峠 Spluegenpass までの片道切符を買おう。切符はユーロ表示になっているが、スイスフランでも買える。なお、バスの乗り継ぎ時間があまりないので、あらかじめイタリア側の運転手さんに言っておけば、多少時間を過ぎてもちゃんと待っていてくれる。

 峠までのバスからの眺めは素晴らしい。何度もスイスに行っていると峠の見晴しなんて飽きるだろうと思われるかもしれないが、××とヤギは高いところが好き。飽きるくらいならスイスリピーターにはならないだろう。頂上目前でバスはスイス税関のコントロール(たいてい外から眺めるだけ)を受け、再びしばらく走って峠に到着、そこでバスを降りる。目の前には国境の監視所があり、警備兵がいるが、特に何も言われなければそのままハイキングコースに入っていってよい。

 標識の Bergseeli を探して、アルペンローゼと高山性の芝草が混じって生える草付きの中の道に入っていこう。ここからベルクゼーリまでは、まだスイス国内である。

 歩き出してすぐ、なだらかな草付きの途中で、ハイキングルートが交差するポイントに出会う(標識あり)。ここがモンテ・スプルーガへの分岐になるので、覚えておこう。今は標識の Bergseeli の方角へ向かう。道はやがて急傾斜のつづら折りになる。歩き出しの標高が高いため、ここから先しばらくはかなり苦しいかもしれないが、徐々に低くなる監視所の屋根でも見ながら、ゆっくり登っていこう。少し辛抱すれば、今までバスで走ってきたシュプリューゲン峠の道が一望のもとに見渡せるようになり、気分爽快だ。

 つづら折りが終わると、道はグッと左にそれ、大岩の積み重なりの中に入っていく。コース概況で述べた危険個所はこの先だ。目的地のベルクゼーリまではあと少しなので、慎重に進もう。

 危険個所を過ぎると、シュプリューゲン側にテラス状に張りだした小カールに出る。直訳すると「山の小さな湖」となるベルクゼーリは、円形劇場のようなカールの底にたたずむ、氷河の置き土産なのだ。ここで少しくらい時間を取り、気に入った場所でおやつでも食べよう。

 ところで、スイス人は朝食を早朝のうちにコーヒーとパン切れで軽く済ませ、10〜11時頃に第2の朝食をかなりしっかり取る習慣がある。そのくらいの時間に電車の中やオフィスを眺めてみるとよい。具のたっぷり入ったサンドイッチに、オフィスであればカップスープやコーヒーを手にした人たちが見られるだろう。もちろん、アウトドアならば尚更で、朝っぱらからよくもまあこんなに豪華な…というようなすばらしい御馳走をひろげている一行をよく見かける。朝にシュプリューゲンを出発すれば、ベルクゼーリはそんな「第2の朝食」の好スポットになるだろう。

 ベルクゼーリのひとときを楽しんだら、再びシュプリューゲン峠に帰ろう。先ほどの道を慎重に下り、草付きの中の分岐まで戻る。ここからは国境監視所の方へ行かず、標識の Monte Spluga の方角に向かう。数歩も歩けば、そこはイタリア領だ。

 緩やかな下り道の周囲は、一面の花畑だ。イタリアだからというわけでもないだろうが、気のせいか登山道の整備が悪くなり、道はところどころ草むらのなかに埋もれて不明瞭になるが、あまり気にせずに進んでいこう。そのうちに、すり減った石畳の旧街道の痕跡があらわれるようになる。まさかローマ時代の石畳ではないだろうが、かなり古そうだ。

 しばらく下って再び道が不明瞭になりはじめると、車道に近づいてくる。車道の向こう側に一軒家(レストラン?)がある場所まで来たら、適当なところで車道を渡り、一軒家の左手から再びハイキングコースをたどろう。このあたりから、目的地のモンテ・スプルーガの村とダム湖が見えるようになる。あとは目的地まで快適なお花畑のハイキングだ。

 青白い水をたたえた湖に面したモンテ・スプルーガは、シュプリューゲン峠の重要な宿場町で古い建造物もいくつか残っている。また、ちょっと国境を越えただけで、ドイツ語圏スイスの間抜けなパスタ(失礼。だが事実だ)とは比べ物にならない、おいしいパスタも食べられる。ちなみに筆者が利用したのは、峠越えバイクの兄さんたちが群がる、メインストリート沿いの明るい店だった。

 ついでなので、土産物店を兼ねた酒店らしき店ものぞいてみよう。ここの名産は、アルプス特産のハーブをグラッパに漬けた薬草酒だという。見ると、ヨモギ風のもの、リンドウらしきもの、ネズの実、ブルーベリーやら松ぼっくりまで、何十種類もの薬草酒がある。自家製の「本物」はかなりの値段だが、興味のある方は試してみられては?ケチな筆者はここで土産物風の安いブルーベリー酒を買ったが、これははっきり言って大失敗だった。ちなみに、このあたりの店は皆スイスフランで支払い可。
(筆者がここを訪れた2002年夏は、ユーロ圏でもスイスフランで支払ったほうが、日本円に換算したときにかなり得だった。スイス国内であれば、尚更である。これから先どちらの通貨もレートはかなり変動すると思うが、バカにできないくらい差が生じることもあるので、買い物をするときにはユーロとスイスフラン、どちらが得か事前に計算してみては?)

 さて、気が済んだらシュプリューゲンに戻ろう。バス停は礼拝堂の前にある。また、このままイタリアに入ってももちろん良い。

追記:モンテ・スプルーガから先は、ダム湖の向こう岸に沿って歩き、最後にダムの堤を渡ってひとつ下の集落に出るコースが続いている。歩行時間は1時間ほどだそうで、ダムの堤からの眺めは高所恐怖症注意系の絶景だとか。筆者は面倒くさくなってしまい行かなかったが、歩き足りないという方はぜひ試してみて、感想をお聞かせ下さい。

ベルクゼーリへの道の途中から見たシュプリュ−ゲン街道。正面の山の下あたりがシュプリューゲンの村。ヘアピンカーブの峠道の左に小さく見える建物はスイス税関

    

峠の頂上にある国境警備隊の建物

    

ベルクゼーリ(山の小さな湖)は、カール底にあるいくつかの小湖の集まり。上方にはターミナルモレーンの小山が見える

    

旧街道の石畳。道は遠くに見える一軒家のところで車道の向こう側に移り、花畑の中を歩く

    

終点、モンテ・スプルーガの集落が見えてきた。青白い水はダム湖

    

モンテ・スプルーガの村。左にちょっとだけ見える灰色の建物は、かなり歴史のある礼拝堂(正確な年代は失念)

     

お疲れさまでした