国民皆兵制度のスイスでは現在でも徴兵制を敷いており、成人男子全員に兵役義務があるということは、日本でも知られている。しかしこの兵役(Dienst ディーンスト)、同じ徴兵制をとるお隣のドイツと違い「良心による忌避」などは、一切許されていない。もしも徴兵を逃れるような事をすれば、即刑務所行きになるのである。
ところがやっぱり、信念・宗教によるものから、ヘンクツ・怠惰まで、さまざまな理由から徴兵を逃れたい人たちはいるのである。そんな人たちは一体どうするのか。
・徴兵検査時に、知能に問題があるか、体に悪い部分があるフリをする
これが一番一般的な逃れ方らしい。しかし、あまりにもバレバレではないか?ところが、民族的・宗教的な事情でそれを実行した知り合いの言では、最近は個人の事情をそれなりに汲んでくれて、彼のようなケースは見逃してもらえるという。ちなみに、徴兵検査で不合格になった人間は、その後ずっと、それぞれの収入に応じて、一番高い税率が課せられる(大金持ちがカネで徴兵を逃れる、というのとは違う。念のため)。
次に、徴兵検査で見逃してもらえず、不幸にも(?)合格してしまったら、もう絶対に逃れることはできないのか?いや、ここにも抜け道がある。
・入営後、同志を募ってわざと大乱闘を演じ「不適格者」のレッテルを貼ってもらう
これもまた、知り合いに実行者がいた。長期間にわたる新兵訓練の最中、周囲との人間関係がどうしてもうまくいかず、同じような立場の数人と芝居を打って部隊から追い出してもらったという。年長者だったので、あれこれ聞くのは遠慮したが、彼はその後、兵役が終わる年齢まで数年に1度、定期的に3週間ほど合宿して行う訓練には参加していたようである。彼の奥さんは言う。
「兵役ね〜〜〜。若い頃はみんな辛くていやがるんだけど、歳取ってからは毎回だんだん楽しみにするようになるのよ。やーね。うるさい家庭とか職場を離れて、毎日仲間と野山で鉄砲ぶっ放せるんだから、そりゃ楽しいわよね。この間も、列車の窓から首突き出して《や〜、オメさもお勤めかやあッ!》《オメもかあ!》なんて嬉しそうに騒いでる連中がいたわ。若いころはクヨクヨしていたに違いないのに」
ちなみに、私が彼女を訪れたときは、ちょうどそのご主人の兵役終了の日と重なった。その日には銃など家庭で保管されている装備一式を軍に返却するのである。ご主人は筆者に、コートやバッグなどは自分で好きに処分してもいいので、欲しければあげるよ、と言ってくれた。これらの装備は大人気で高く売れるそうだ。装備返納の日には、軍の正門の前でミリタリーグッズ屋の買い付け人が待ちかまえているのだという。
そのときは辞退してしまったが、今思えば、もらっておけばよかった??
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