ミノ−ル峠周遊 ランク★★★
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オスピツィオ・ベルニナ駅(2253m)〜ミノール峠(2435m)〜ピッツ・ラガルプ駅(2100m)
地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 LA ROESA (Blatt 1278)、LA STRETTA (Blatt 1258)
コース概況:
 所要時間はオスピツィオ・ベルニナ駅からミノール峠が1〜1時間30分、ミノール峠からピッツ・ラガルプ駅が1時間15分〜1時間30分くらい。雪が残る時期(年にもよるが、7月いっぱいくらい)、ミノール峠の手前に急斜面の雪渓をトラバースする箇所がいくつかあるので、高山の経験がない人はこの時期は避けること。それ以外には特別な危険はない。

 ロープウェイで上がれる小ピーク、ピッツ・ラガルプ(2959m)の裾をぐるりと1周する周遊コース。前半はラーゴ・ビアンコ越しに、氷河を抱くベルニナ山塊の山々を眺めながらのお花畑の道、そしてミノール峠ではポスキアーヴォ川上流の深い谷の大展望、後半は氷河が残した湖と岩の神秘的な世界を歩く。たった3時間足らずのショートコースで、アルプスの様々な貌を見ることができるという点ではピカいち。ガイドブックでおなじみのラーゴ・ビアンコからアルプ・グリュムまでのハイキングだけでは物足りない人は、ぜひこのコースも一緒に歩いて素晴らしい1日を過ごそう。

※このコースは風景の展望方向から考えると、今回紹介するのとは逆方向の、ピッツ・ラガルプ駅起点で登った方が実際にはおすすめ。特にアルプ・グリュムまで通して歩きたいならその方が合理的でもある。その場合の所要時間はピッツ・ラガルプ駅からミノール峠が約2時間、ミノール峠からオスピツィオ・ベルニナ駅が約1時間15分。ただし!前述の雪渓が残っている時期は、そこを下りながらトラバースすることになるため、コンディションや自分の実力と相談して。

地域図はこちら

 ポントレジナからレーティシュ鉄道ベルニナ線の列車で約30分、オスピツィオ・ベルニナ Ospizio Bernina 駅で下車する。風光明眉なこの駅はヨーロッパの普通輸送用鉄道の中で一番標高が高い場所にあるそうだ。列車が着いたばかりのホームはオーバーエンガディン観光の目玉のひとつ、ラーゴ・ビアンコ Lago Bianco からアルプ・グリュム Alp Gruem 間のハイキングに出発する人たちで賑わっているが、彼らとは違う道を行くので、つられて同じ方向に行かないように注意しよう。

 駅ホームのポントレジナ側の端から砂利敷きの坂道を登っていくと、すぐに立派な舗装道路に突き当たり、道路の両側にはドライブインまで建っている。ここが道路のほうのベルニナ峠の頂上で、夏であればアルプスを越えてイタリアへ向かうドイツ車や峠越えを楽しむオートバイなどで賑わっているだろう。

 舗装道路を渡り、標識でミノール峠 Fuorcula Minor を見つけたら、それに従って登山道に入る。緩やかに登っていけば、ドライブインの脇の小湖ではしゃぐ観光客たちの嬌声もすぐに耳に届かなくなり、周囲は一面のお花畑。背後のラーゴ・ビアンコとベルニナの山々、山腹の蒼白い氷河が素晴らしく、まさしくスイス・アルプスといった風景だ(ただし最初の15分間ほどは送電線が視界を大々的に横切るのが玉にキズ)。

 道は時々じくじく湿った部分を通ったりもするが、特に歩きにくいような箇所や急登もなく、歩きはじめから30分かかるか、かからないかという程度で小池の点在する浅いカールの底に到着する。相変わらず花も豊富で、ちょっと気が早いが小休止するのにいい感じの場所だ。ただしこのカール底から、道は池や湿地、小川を避けるように、いくつもに枝別れして縦横無尽に広がってしまうことに注意したい。ここで道を間違えるとピッツ・ラガルプの頂上など全く別の方向に向かってしまうので、出発の時にはよく辺りを見回して黄色い標識を見つけ、Fuorcula Minorと書いてある方向に進もう。岩のペンキ印にも注目。

 標識から少し登り、小さな尾根のハナを曲がってカールと別れると周囲の風景は一変する。氷河を抱いたベルニナ山塊とみずみずしいお花畑に別れを告げ、周囲は乾いたガレ場と草付きの急斜面、それに今まで見えなかったポスキアーヴォ川源流部の深い谷が見渡せるようになる。この長大な谷にはイタリアのリビーニョ方面へ抜ける街道が通っているのだが、国境近い谷の常で人気があまり感じられず、正面の乾燥し切った山脈の壁と相まって、非常に寒々しい印象を受ける。もっともこれはこれでかなり魅力的だ。ここからミノール峠まではほとんど標高差がなくなり、小さなアップダウンのくり返しになるが、この項の冒頭に書いた雪渓が登場するのはこの区間なので注意してほしい。

 ミノール峠が近付いてくると、眼下の谷にちょっと異様な感じの小山が見えるようになる。それほど大昔でもない時代に氷河が残したターミナルモレーンのように見受けるが、地図で見るとどの方向から押し出されて堆積したのかちょっと見当がつけがたい。地理が好きな人ならちょっと一見の価値がある。

 謎の小山や氷河が削り出した自然の造型に見とれているうちに(足下注意)ゆるゆるとミノール峠に到着、ここからは蒼黒い水をたたえた美しい小湖を眺めながら、見事なU字谷のミノール谷に入って行く。最初の湖を左に見ながら、羊背岩や半ば埋まったガレの点在する草地の道を緩やかに下って行くと、すぐにやや大きな湖が突き当たりに見えて来る。このあたりはU字谷源頭部独特の円形劇場のような地形をなしており、物音や動物の声がよく響き渡る。素晴らしい雪と岩、そして水の世界で、またまた休憩にはちょっと良い感じの場所だ。

 これぞスイスアルプストレッキングの醍醐味、という風景を思う存分味わったら、再び歩き出そう。これから先はずっと緩やかな下り坂が続く。

 下り始めは更にいくつかの小湖が登場するのだが、ちょっと注意したいのは水辺の雪渓。湖岸や川に沿って雪上に残った足跡をたどって行く場合、それが雪を赤く染めたルート指示の上を正確に通っていなかったら、その足跡の上は歩かないほうがいい。もしかしたら湖の水面にはり出した(つまり宙に浮いた)雪塊の上を通っている可能性があるからだ。踏み抜いたところで、さすがに溺れ死ぬような事態が起るとは思えないが、ネンザくらいはする危険が高い。

 次第に水量を増やして行く川に沿ってどんどん谷を下って行くうちに雪渓も消え、周囲の風景には再び緑の部分、そして花が増えてゆく。このミノール谷もかなり花が多い谷だが、前半歩いた道とはまた違った種類の高山植物が多く、目の前の風景と足下と、どちらを見たら良いか迷うほどだ。そもそもこのコースは、湿性の草原から砂礫地帯〜湿潤な岩場と、様々な環境を通過するため、観察できる花の種類が非常に多い。興味のある人は高山植物図鑑を持って行くと良いだろう。

 さて、徐々に標高を下げ、岩の世界からしだいに柔和なアルプの風景に戻って来ると、下のピッツ・ラガルプ駅方面からお花畑散策に上がって来た軽装の人たちの姿もちらほら見えるようになる。そしてベルニナの白い山々に再会。最後にU字谷の出口から吐き出されるように視界が一気に広がったら、最後に登場する滑りやすい急坂に注意しながら、眼下の駅まで一気に下るだけだ。

このコースに関連するロマンシュ語
laj
val
plan 平らに広がった地形全般
fuorcula 鞍部、乗越、=峠
palu¨ 湿地
muott, costa
ova 川、沢
オスピツィオ・ベルニナ駅。目の前のラーゴ・ビアンコの水は、普段はもっと美しい乳白色だが、発電用の取水のためか、はたまた何かの工事か、写真の日はほとんど干上がってしまっていた。ちょっと残念

       

歩き始めて30分。背景にはパリュの支脈、ピッツ・カンブレーナ(3602m)の見事な氷河が

    

6月中頃から7月上旬頃にかけてよく見られるアネモネの仲間。大振りの花はよく目立って美しい

       

ポスキアーヴォ川源流の谷を南(ポスキアーヴォ方向)に向かって望む。同じ谷も国境に続く北側は寒々しい風景なのだが、こちらは穏やか

       

ミノール峠近く。正面はピッツ・ミノール(3049m)

       

ミノール峠を越えると、周囲は岩の世界へ。尾根の向こうに雷雲の頭が見える。間もなくこちらにも広がって来そうな気配。日本の夏山と同じで、スイスの夏も午後はこんな日が結構ある

     

峠からしばらくの間、こんな美しい湖が連続する

    

ミノール谷の出口近く。この写真の撮影から間もなく、のんきに歩いていた登山道上の人たちは、雷のために一団になって駅まで走り出すことに……
関連:
山ノボラーのための ロマンシュ語ミニ辞典

記録:2004年7月上旬