村の機織り工房
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 スイスの町や村を歩いていると、「こんなに人口の少ない所で、よくここまでやっている!」と感心するような、個性的なお店や工房にしばしば出会う。このページで紹介する、ミュスタイア谷の手織り工房・テッサンダ Tessanda もその中のひとつだ。

 テッサンダは旅行ガイドブックでもおなじみの世界遺産、聖ヨハネ・ベネディクト会修道院のご近所、サンタ・マリア村 Sta. Maria Val Mu¨stair にある。場所は村の中心部、街道沿いに建つ典型的なグラウビュンデン式の建物の一角だ。1階(向こう風に言うと地階)はショップ、上が工房とオフィスになっており、重たい木のドアを開けて入っていくと、想像していたよりもずっと力強い織り機の音、そして微かに振動が伝わってくる。

 さっそくショップを拝見。広い店内にしつらえられた白木の棚には、皿拭き用の布巾や浴用タオル類などの小物から、ベッドリネンのような大物、更に切り売り用の広幅の反物まで、様々な日用遣いの布製品が並んでいる。これらはもちろん、すべて手作業で織られたものである。

 人の手でひとつひとつ打ち込んでいく織物は目がきっちりと詰まり、一見武骨でどっしりと堅そうに見える。ところが、お店の人に促されて手で持ち上げてみると意外にしなやかで、垂れ下げてみると美しいドレーブを生む。光にかざして見れば、機械製品にはない立体感が、布地の表面に微妙な陰影を与えている。

 生成りの麻と織り模様が醸し出す微妙な色合い、あるいは鮮やかに染まった羊毛のグラデーション……女性だったらこんなリネン類で家を埋めてみたくなるのは間違いない!

 この工房は1928年、地域の貧しい女性たちに現金収入につながる職を持たせるため、牧師が女性たちを集めて工房を開いたのがそもそもの始まりだ。スイスのみならず、ヨーロッパでは古くから各地に同じような目的で設立された工房や作業所、商店などがあり、現在もなお現役で稼働・営業中の所も多い。

 テッサンダでは自然素材を使い、今でも伝統的な方法で地道に布を織り続ける。しかし、前衛的なデザイン製品と違い、ここで扱っているような日用遣いのリネン類は、どうしても安価な輸入品に市場を席巻されやすい。以前はスイス国内にも多数存在した「村の機織り工房」も、現在はテッサンダが最後になってしまったそうだ。筆者が見学したとき、工房には若い人から年輩の人まで数人の女性が働いていたが、後で地域の事情に詳しい人から聞いた話では、彼女たちはスイスの水準としては考えられないような低賃金で頑張っているのだという。

 しかし、自分を取り巻く環境が厳しくても、手作り仕事というのは一旦夢中になってしまうと、ただひたすら良いものを作る事だけしか考えられなくなる。この工房には、そのような生活と思考に憧れ、見習いとして織りを学ぶ若い人もいるのが心強い。ぜひ一度ここを訪れて、工房の女性たちの生み出す「本物」にふれてみよう。

TESSANDA Val Mu¨stair
CH-7536 Sta. Maria / Mu¨stair
ホームページはこちら(ドイツ語のみ)

ショップの営業時間(営業時間内なら工房も見学可)
月曜日〜金曜日
8.00〜11.30 / 13.30〜18.00
土曜日
8.00〜11.30 / 14.00〜17.00

アクセス:
ツェルネッツ〜ミュスタイア線郵便バス、Sta. Maria, Posta(郵便局)下車。郵便局の前でキョロキョロすれば、道の対岸にインフォメーションの"i"の字の看板が見えるのでこれを目印に。インフォメーションのドアと並んで、テッサンダのドアがある。


TESSANDAのパンフレット。
(クリックすると拡大表示します)
ショップの番をしていた、おそらく見習い中の若いお嬢さん(あれこれ尋ねてみればよかった)。その後工房の片隅で、小さな作品を先輩に指導してもらっていた。
こちらは先輩。手織りの機織り機というと小さなものを想像しがちだが、これは140cm幅の反物がかかる大型の織機。シャトルには先導用のひもがついていて、手許の操作で左右に振っていくが、かなり重労働のように見える(彼女の腕の筋肉を見よ!)。筬の打ち込み方も非常にパワフル。ものすごい音と振動。

サンタ・マリアの村には他にも個性的な木工品の店や、ちょっと変人っぽいパン店(名前はマイヤーだったかな?ビルネンブロット…梨パンで有名らしく、ここの製品は都市部の高級食品店などでも手に入る)、騎士の甲冑が家中にゾロゾロ飾ってある、やっぱり相当に変わった宿など、なかなか面白いものが沢山ある。ミュスタイアの修道院を訪れた際は立ち寄る価値あり!

参考:
小さな村・小さな町
ミュスタイアとサンタ・マリア

ハイキングガイド
ミュスタイア谷ハイキング、チエルフからサンタ・マリア

サンタマリア村遠景。ミュスタイアの修道院からバスで10分足らず、歩いてもせいぜい1時間。花の季節はなかなか楽しい散歩道だ。
20. 03. 2006
Vielen Dank an Frau Anna Solinger,
Tessanda Val Muestair