シュクオル Scuol の町の中心部にある温泉施設、ボン・エンジャディーナ Bogn Engiadina の前からスタートしよう。
施設入り口を背に、右手(東)に向かって100mばかり歩くと細い沢にかかった橋があるので、それを渡ったら左に曲がり、沢にそって少々坂を登っていくと、国道との立体交差をくぐる。その先の三差路でキョロキョロすると、ハイキングコースを表す黄色い標識があるので、それでトゥッファローラス Tuffarolas あるいはセント Sent という表示を確認し、そちらへ向かって歩き出す。
(トゥッファローラスはセントへ行く途中にある放牧地の字名)
最初に細い急坂をえっちらおっちら登ると、すぐに砂利舗装の農道につき当たる。これまで登ってきた道はこの先で自然消滅してしまうので、農道に移って、ゆるやかな坂を登っていこう。周囲はマツムシソウやヒナギク、フウロソウの仲間、レースのように繊細な花を咲かせるセリ科の植物などが一面に咲き乱れるお花畑。遠くに目をやれば、ピッツ・リシャナやピッツ・サン・ジョンなどの山々を背景に、シュクオルの町も見渡せる。
道は広い斜面のあちこちで分岐して、気ままな方角に向かっている。登りに疲れれば下り、下りすぎて車道に近づいてしまったらまた登り……というような感じで、常にセントの方角に向かうようにしながら、適当に好きな道を歩いていけばよいだろう。ある程度標高を上げたほうが眺めが良いのはもちろんだ。
選ぶ道にもよるが、大体1時間足らずでセントの集落に近づいてくる。集落に入る前にやや大きな沢があり、橋を渡らなければならないので、集落が近づいてきたら周囲をよく見渡して、ハイキング用の標識、あるいは橋に通じる道を探して、村に入ろう。
セントは「ウルスリのすず」で知られるグアルダ村同様、ウンターエンガディンの中でも特に古い時代の面影を良く残していることで知られる美しい村だ。ここはルネサンス期以降近代まで、戦乱などによる大火に何度も見舞われたそうだが、そのためか、エンガディン地方独特の建築様式に、様々な時代に流行したデザインがミックスされた、独特な建物があちこちで見いだせる。純粋に農村風のグアルダに較べ、こちらはかなり都市文化の影響が感じられ、昔は一体どういう所だったのだろうと、歴史ファンならずともあれこれ思いがめぐる。
セントの村を見物したら、次の目的地・ラモッシュ Ramosch に向かって歩き出そう。村の中心にある広場から東へ抜ける道を見つけ、例によってハイキングコースを示す黄色い標識で"Ramosch"という表示を探したら、そちらに進もう。こぎれいな貸しシャレーが立ち並ぶ村外れから、再び道は牧草地の中を行くようになる。相変わらずの花と好展望を楽しみながら歩こう。
45分ほどで、ラモッシュの集落手前にある深い谷にぶつかる。シネストラ谷 Val Sinestra といい、ここの奥はハイキングコースとして非常に人気があるほか、鉱泉が湧くことでも知られている。さて、数ヶ所に橋がかかるセントの手前の谷と違い、このシネストラ谷を渡る橋は、眼下を通る国道の橋1本しかない(2時間半ほど余計に歩く気があるなら、上流のシネストラ鉱泉まで行って、そこで谷を渡っても良いが……)。谷の手前で国道に向かって下る道は、ややわかりにくい森の中の急坂だ。木の根がゴツゴツ張り出してやや歩きにくいので、ここだけは若干足下に注意したい。
国道に出たら橋を渡り、うんざりする感じのアスファルト舗装の急坂を登れば終点・ラモッシュの集落。ちなみにシュクオル、あるいは国境のマルティーナ行きバスは、集落の中からではなく国道沿いにある停留所"Ramosch Fermada"から、どちらもほぼ1時間に1本の割合で発着する。セントの村を見てしまった後だと、ラモッシュはそれほど興味深いという感じでもなくなってしまうので、坂を登るか否かは残り時間と相談して決めると良いだろう。
(食事やコーヒーの取れる店は集落の中にある。"Ramosch Fermada"から集落の郵便局までミニバスがつないでいるが、本数はごく少ない。このミニバスはシネストラ谷の途中にあるフナー Vna の集落が終点。エンガディン風の集落に興味のある人は、ここは多少見る価値がある)
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