スノーハイク
クライネ・シャイデック〜ウェンゲン
ランク★★☆
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クライネ・シャイデック(2061m)〜ウェンゲルンアルプ(1874m)〜ウェンゲン(1275m)
地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 GRINDELWALD (Blatt 1229)、LAUTERBRUNNEN (Blatt 1228)
※現地で貰えるパノラマ地図(冬期用)を併用すると便利
コース概況:
 所要時間はゆっくり歩いて約2時間。コースのコンディションにかなり左右されるので、念のために3時間と見込んでおくと間違いないだろう。コースの凍結がひどかったり、天候が急変してきたときは、途中リタイヤしてウェンゲルンアルプ、あるいはアルメンドの停車場から登山電車が使える。
ちなみにスノーハイクは、スキーが全くできない人でも大丈夫。

 夏の初心者ハイキングコースとしておなじみの、クライネ・シャイデック〜ウェンゲン間だが、冬もまた、スノーハイクの人気コースになる。夏道とは多少ルートが違うので、現地へ行ったら標識の指示に従って歩くこと。滑り止めのついた登山靴やスノーシューなど、雪の上でも滑らずに歩けるしっかりした靴は絶対に必要。できればスキー用、あるいは登山用のストックを持った方が安心だ。

 コースはごく一部を除き、高速で滑走するスキー・スノーボードが進入してくることはないが、子供の橇やノルディックスキーは歩行者と同じコースを使う。どちらもそれほど高速は出さないが、ブレーキ(エッジ)がないため、扱いに不慣れだと急に止まることが出来ない。これらとの「交通事故」に注意。

 このコースは最初から最後までほぼ全面的に下り坂を歩く。楽に見えるかもしれないが、雪道の下りは普段使わないような筋肉を使うので、意外に体力が必要。その上、途中で数度は滑り転ぶ覚悟をしておいたほうがいい。雪が柔らかい時はそれほど危険でもないが、コースが堅く凍結しているような時は、普段雪道を歩き慣れない人にはちょっとお勧めしかねる。また、悪天候の中でのスノーハイクは、道迷いなど遭難の危険があるので絶対にしないこと。まあ、冬の悪天候の中をわざわざハイキングするような酔狂な人はいないと思うが……。吹雪の日もゲレンデに大勢のスキーヤーが出る日本と違い、スイスでは天気の悪い日はゲレンデに誰もいなくなってしまうようなことが結構ある。また、一面雪野原で目標物の少ないクライネ・シャイデック付近は、視界が悪いときはまったくホワイトアウト状態になってしまうため、道に迷って動けなくなってしまったら、そこはコーヒーハウスの屋根の上だったなどという、笑うに笑えない話もある。

 コースのコンディション、候の見込みなど合わせ、事前にグリンデルワルトかウェンゲンの観光局や貸しスキー店などで状況を尋ねてみるとよいだろう。

標識の例。左はスキーヤーのみ進入可、右は橇と歩行者のみ、という意味で、行き先はどちらもウェンゲン。夏と違い、地域によって表示方法が結構違うが、大体わかる
     

 冬も相変わらずのユングフラウヨッホへの観光客、そしてスキーヤーで賑わうクライネ・シャイデック Kleine Scheidegg 駅。駅舎の裏手、ユングフラウ三山に対面する側に回り込むと、ピッツァなどを売る屋台や屋外テラスのカフェがある。そこで周囲を見回すと、スキーヤー向け標識と一緒に、ウェンゲン Wengen へのスノーハイクコースを示す案内板があるので(歩行者のイラストマークか、あるいは"Fussweg"と書いてある)、それに従って、さっそく歩き出そう。隣接するスキーゲレンデに間違って入り込まないように。

 さすがに夏ほどではないが、それでもやっぱりハイカーや橇遊びの家族連れで賑わうハイキングコースは、一部を除いて夏のハイキングコースとほぼ同じルートになる。夏は一面の牧草地になるこのあたり、冬は遮るものが何一つない雪原で、すぐ背後のアイガー北壁をはじめ、周囲の山々が大迫力で迫ってくる。道はなだらかで幅もあり、割合気楽に歩ける。素晴らしい展望を楽しんだり、直下を並走するスキーゲレンデのスキーヤーでも冷やかしながら、足慣らしのためにゆっくり下っていこう。

 歩き始めて1時間足らずで、ウェンゲルンアルプ Wengernalp 駅に到着。レストランがあるので、暖かいものを飲んで一息いれたり、お手洗いを借りることができる。ここのそばで、ハイキングコースとスキーゲレンデが交差するポイントがあるが、比較的急坂になっている上、スキーで堅く踏み固められていることが多いため、短距離とはいえちょっと用心が必要だ。

 ウェンゲルンアルプを過ぎると周囲にだんだん立ち木が増えてくる。立体交差になったスキー滑降コース(ここでしばしばワールドカップ級の大会が開かれる)を横切るあたりで、道が大きく右にカーブするとともに、眼下に目的地・ウェンゲンの村や、ラウターブルンネンのあるリュチーネ谷〜インターラーケン方面も一望できるようになってくる。深々と氷河にえぐられたリュチーネ谷の岩壁は、雪や氷からの反射光を受けて夏とは全く違った色合いを見せ、大変美しい。また、周囲には次第に、葉を落とした灌木の茂みや、綿帽子のように雪をかぶった針葉樹の疎林が目立つようになってくる。

 しばらく行くと、道はアルメンド Allmend の駅近くで登山鉄道の線路を横切る。アプト式特有の歯形のラックレールが面白い。ここは鉄道ファンにとって格好の撮影ポイントになるらしく、筆者が訪れたときは数人が三脚を立てて列車を待っていたが、線路とコースの間を遮るものが何一つないため、特に子供が一緒の時は、近づきすぎないように注意を払おう。

 線路を横切ると、すぐにスキーリフトの下を潜る(リフトから降りてゲレンデに出るスキーヤーとぶつからないように)。あとは真下のウェンゲンの村まで一気に下り……と言いたいところだが、実はここから先が意外に長い。その上、これまで大体なだらかな下りだった道は次第に傾斜がきつくなり、雪の詰まった段差なども所々に現れて、足下が不安定になってくる。また、ウェンゲンの村から散歩でこのあたりまで往復する人がかなりいるせいか、ガチガチに道が踏み固められ、滑りやすい箇所も増えてくる。転んでケガなどしないよう、ぜひとも注意したい。

 明るい疎林や雪原が入り交じる中を抜け、次第に放牧小屋や貸しシャレーなどの建物が見え始めれば、ウェンゲンの村の入り口。集落の中に入ったら、あとは任意の道を通って、スキーヤーで賑わう村の中心部へ出よう。なお、村の突端にある可愛らしい教会は、ラウターブルンネンの谷を見下ろす格好の展望台になる。時間があったらぜひ訪れ、冬のベルナーオーバーラントの絶景を最後まで満喫しよう。

おなじみクライネ・シャイデック駅の冬の主役は、スキーヤーや雪遊びの人たち。駅の裏側の日なたにはソーセージ屋台などが建ち並び、予想以上の賑やかさだ

       

歩き始めて15分ほど。振り返って仰ぎ見るアイガー(3970m)。北壁は数々の登攀記に書かれた通りの厳しい表情。実はもっと近くから写真を撮りたかったが、巨大すぎて断念

       

オレンジ色の蛍光色に塗られたポールが延々続き、コースを指示している。ほぼ全行程に渡って登山鉄道の線路かスキーゲレンデが並行しており、悪天候でなければ道に迷う心配はない

    

冬至前後の1ヶ月くらいは太陽の角度が低いため、コースの一部はほとんど日の射さない山陰を歩くようになる。写真は午前中なので、西斜面のクライネ・シャイデック〜ウェンゲン間はしばらく日陰の中。谷一つ隔てたミューレンの村が陽光の中に見える。
中央の山はシルトホルン(2971m)

       

スキー板満載でやって来た登山電車

       

ウェンゲンの村外れまでやってきた。写真だとわからないが、道は踏み固められてガチガチのアイスバーン。全行程で一番危険なのはこのあたりかも

       

終点、ウェンゲンから見上げるユングフラウ(4158m)、右奥にブライトホルン(3785m)。
ウェンゲンの村の中心部はスキーヤーたちでにぎわい、カフェやレストランなども夏同様に営業している。何か暖かいものでも飲んで、帰途につこう
21. Nov. 2004