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ユーフ(アーフェルス谷)からマロヤ ランク★★★
ユーフ(標高2117m)〜フォルツェリーナ乗越(2672m)〜セット峠/セプティマー峠(2310m)〜ルンギン峠(2645m)〜ルンギン湖(2484m)〜マロヤ(1800m)
地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 VAL BREGAGLIA (Blatt 1276)
コース概況:
 所要時間の目安はユーフからセット峠(セプティマー峠)が2.5〜3時間、セット峠からマロヤも2.5〜3時間。

 累積標高差がさほどでもないのにかかわらず、風景は終始ドラマチックに変化し続ける。体力と好天に恵まれるようだったらぜひおすすめしたいコース。地元でもかなりメジャーなトレッキングコースになっており、結構人が多い。

 とはいえ、歩き出しの標高が高く、その後も終始2500m前後を歩き続けるため、高山病に弱い人は絶対にやめた方がいい。また、そうでない人も意外に激しく体力を消耗する。最初のフォルツェリーナ乗越は比較的楽に越えられるが、次のルンギン峠は、標高差はあまりないにもかかわらず、かなりきつく感じるかも。自信がない場合は中間のセット峠からビヴィオに下ったほうが無難(セット峠からはブレガリア谷のカサッチアにも下れるが、標高差がかなり大きく、それなりにまた消耗する)。
注:ルンギン峠は、本当にそう発音するのかいまいち自信がない。筆者の耳にはそのように聞こえるが…

交通概念マップ
地域概略マップ
   
 アンデールからアーフェルス Avers 行きの郵便バスに乗って約1時間、終点ユーフ Juf で下車する。案内標識の Maloja を目印に、牧草地の中の道に入る。

 U字谷の底の道は標高差はあまりない。周囲のだだっぴろく荒涼とした風景は、チベットあたりを思わせる。この辺りでは放牧地に行く道が交錯し、不明瞭な分岐がいくつもあるが、行き先が見えるので迷うことはないだろう。15分ほど経ったころから道は緩やかに登りだし、やがていきなりつづら折りが始まるが、後ろを振り返ればアーフェルス谷の全貌が見渡せ、また、花々も急に増えてくるので、途中飽きることがない。

 1時間ほどで道がだんだん緩やかになり、足下がガレっぽくなってくると、ビヴィオ Bivio 方面との分岐に到着。これまで一群となって歩いていた同じバスの人たちの半数以上は、ここからビヴィオに向かうだろう。筆者はそのコースを歩いたことがないが、聞いた話では易しい割に結構景色が良く、悪くないそうだ(この前項で紹介したものとはまた違うコース)。

 分岐からは道はほとんど水平になり、次第に緩やかに下りはじめる。この辺りから風景は急に雪と岩の世界に変わりはじめ、ところどころ雪渓を横切るようになる。やがて再び登りに転じると右手に小さな池が登場し、まもなくフォルツェリーナ乗越だ(標識はない)。ここまで来ると、目の前にイタリア国境の山脈が見えるようになり、周囲の風景が一気に変わる。

 乗越からは氷河に磨かれた岩盤やガレ場が交互に登場する下り。途中、足場の悪いルンゼを通り抜ける箇所があるが、それほど危険なものではない。この辺りは浅いカールになっているが、日本のそれと違って、いくつもの小カールが複雑に入り組み、モレーンの堆積のしかたも複雑で面白い。また、点在する氷河底湖が風景に彩りを添えてくれる。手前の山の向こうには、一時的にピッツ・ベルニナの頭部がちらりと見えるだろう。

 周囲に見とれながらどんどん下っていくと、セット峠 Pass da Sett 、別名セプティマー峠に到着。この辺まで来ると、今度はブレガリアの谷の向こうの山々が見えるようになる。ここはライン川水系と、ポー川水系の分水嶺だ。

 概況でも述べたが、セット峠はビヴィオ、カサッチア Casaccia 方面への道(旧セプティマー街道)も分岐する交差点になっている。下りきったところで「峠」とはちょっと不思議な感じがするが、ビヴィオ〜カサッチア間を結ぶセプティマー街道のルートから見ると、確かにここが最高地点だ。

 一休みしたら、いよいよ2つ目のルンギン Pass Lunghin を目指す。地図で見ると、等高線の間隔が開いた、だらだらと緩い、いかにもたいしたことないような登りに見えるが、高度のせいもあって結構辛い。おまけに足元も延々単調なガレ場の連続だ。実を言うと、この区間はあまりに辛すぎて、どんなふうだったか良く覚えていない。今までだいたい一群となって歩き、一緒に写真の撮り合いなどして楽しんできた同じ郵便バスの乗客たちも、ここで完全にバラけた。皆さんも標高差にだまされないよう気をつけよう。

 ところで、スイスで1人で山を歩いていると、同じ乗り物になったり、レストランで相席になった人たちに、しばしば一緒に歩こうと誘われる。相手が中高年のおばさんパーティーだったりすると、お誘いに乗ることがあるが(注意:これは相手の人数、性別、雰囲気などかなり状況に左右される。当然だが、やたらに知らない人にくっついて行っては絶対いけない!)、たとえおばさんや老人であっても、山を歩き慣れたスイス人(またはしばしばドイツ人)の足はかなり早い。特に岩場では、遺憾ながら足の長さの違いをしみじみと実感させられる。彼らと一緒に歩いてオーバーペースになり、途中でへたばらないように。

 四苦八苦の末ルンギン峠に到着。ここであなたの苦労は報われる。目の前にはピッツ・コルヴァッチュ、その向こうにベルニナの頭。この風景は、本当に一生忘れることはないだろう。ちなみに、この峠はライン川とポー川、そしてドナウ川(イン川)の3つの水系の分水嶺になっている。

 なお、ここでもまだ体力を持て余しているという素晴らしい人は、標高2780mのピッツ・ルンギンに登るとよいだろう。峠からは往復1時間くらいだそうだ(…とは、そこから降りてきたスイス人の弁。もう少し時間を加算したほうが無難だろう)。

 さあ、ここからはマロヤまで、一気に下るだけだ。眼下に小さな湖が見えるが、これがルンギン湖 Laegh dal Lunghin 。これもターミナルモレーンにせき止められた湖の水は素晴らしく青く、今までの疲れも吹き飛びそうだ。湖のそばで、道が何方向かに分岐するポイントに出る。Maloja と書いてある方に進もう。

 氷河に削られた擦痕のある岩などをながめながら、やや急な道を下る。このあたりにも時々足場の悪い場所があるので、注意しよう。道が緩やかになるとエンガディンの谷の山々がどんどん近くなり、ついに最終目的地・シルス湖が見え始める。ここまで来ると、ついつい足取りも軽くなるが、再び少々足場の悪いつづら折りの下りになる。慎重に行こう。下には、深い深いブレガリア谷の、対岸の崖をうねるマロヤ峠の道が見えてくる。時には郵便バスの特徴あるラッパの音が、風に乗って上がってくるかもしれない。

 それからは急激に高度を下げ、あっという間にシルス湖の全貌と、マロヤの集落が見えるようになる。今までの荒涼とした雪と岩の風景に慣れた目には、眼下の黒々とした森がなんとなく南国を感じさせるが、それも当然。ここからはイタリアが目の前なのだ。

 つづら折りが終わると、再び分岐。右の道を取る。ここまで来るとマロヤの集落が目の前なので、悩むことはない。ブレガリアの谷側がばっさり切れ落ちたマロヤ峠の不思議な地形でも観察しながら(ここはドナウ川とポー川の分水点)、のんびりと終点・マロヤに向かおう。

 峠越えツーリングのバイクが行き交う広いバス通りに出たら、右に行けば郵便バス始発のマロヤの郵便局、左に行ってもバス停がある。ここからレーティシュ鉄道のサンモリッツ駅まで35分くらい。あとは大リゾート地・エンガディンを楽しんでもよし、サンモリッツから電車とバスでアンデールに戻ってもよし(サンモリッツからトゥージスまでは1時間半くらいかかる。寝過ごさないよう注意)。アンデールはかなり遅い時間まで特急バスが通っているので、こんなときになかなか便利な村だ。

谷源頭部から見下ろしたアーフェルス谷とユーフの集落。郵便バスの運転手さんによれば、ここユーフは年間を通して人が住む村としては、スイスで最も標高が高いところにあるのだそうだ

    

フォルツェリーナ乗越付近の風景。白地に赤線の登山標識をたどりながら行こう

    

湖沼群の向こうがセット峠(セプティマー峠)。正面の山の右肩奥がルンギン峠になる

     

セット峠付近にて。こんな別天地で1日遊んでいたいが、どの方向に向かっても、まだまだ先は長い

     

やっとたどり着いたルンギン峠。エンガディンに行ったことのある人なら、完全に見覚えのある風景だ。なんだか古い知り合いに会えた気分になる

     

ルンギン湖のそばにやって来た。マロヤまではもう、下るだけ

     

ブレガリアの谷を望む。ちなみに、アーフェルス谷から、新田次郎のエッセイでも知られるこの谷の村、ソーリオに抜けるルートもある

     

大リゾート地、エンガディンが眼前に開けてくる。シルス湖のブルーは、山の湖と違って暖かいブルーだ。真下のマロヤの集落までは、あと30分くらい