スイス人気質あれこれ
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 唐突だが筆者は千葉県人、しかも先祖代々生粋の千葉県人で、血管には落花生とイワシで造られた血が流れている。

 首都圏という括りの中で比較した場合、どう贔屓目に見たって千葉は田舎である。その厳しい現実を東京や神奈川(横浜エリア)の人間にバカにされたところで、多くの千葉県人は鼻をフンッと鳴らす程度で、おそらく反論することもない。ところが、これが埼玉県人相手だと状況がまったく違ってくる。もしも埼玉県人が千葉のことをバカにすれば、千葉県人はがぜんエキサイトし、口を極めて相手を罵倒しはじめるのである。

埼玉県人:千葉?ああ、成田空港ってピーナツ畑に不時着するみたいな気分だよね。

千葉県人:そっちこそ、イモ畑しかなくてデートの行き先に困ってるんだろ?夏の房総は大宮ナンバーばっかりじゃないか。

 つまり、明らかにレベルの違う相手とは対決したくないが、実質的にほとんど差がない相手となら勝負しても良いという偏狭な心理である。ついでだが、千葉県人にとっても埼玉県人にとっても、い○○○県はこれまた別の意味で問題外ということになっている…… 失礼しました

 さてさて、海の向こうのスイスでも、千葉県vs埼玉県の如く、それぞれの州(カントン)の住人同士がお互いのささいな差を指摘してあれこれあげつらう「娯楽」がある。これもまた、スイス各地域の中から自分たちが気になる相手を選び、お互いの微妙な違いを思いっ切りクローズアップしてあーだこーだ言うのだ。

 たとえば、グリンデルワルト周辺の出身、あるいは在住の人と世間話をしていると、そのうちに必ず誰かがこんなことを言い出す。

「ツェルマットって本当にイヤなところよね〜。何がイヤって、あそこの連中の商売っ気の強いこと、強いこと。スキあらば人からフンだくることはかり考えているんだから。私たちスイス人ですら、やられちゃうのよ!それにひきかえ、同じ有名観光地でも、グリンデルワルトあたりの人は本当におっとりしていて、お金儲けにもそれほど関心がないし、万事鷹揚で気持ちがいいわよね〜」
 ここで槍玉にあげられるのは必ずツェルマットである。グリンデルワルトvsツェルマット、どちらもスイスの2大観光地ということで、おのずから闘志も燃えるということか。ときに、あなたの実感と照らし合わせて、いかがですか?

 それでは、一方のツェルマットの住人はグリンデルワルトの人間のことをどう言っているのだろうか(そもそもグリンデルワルトの悪口を言っているのだろうか?)。筆者にはツェルマットの知り合いはいないので、スイス国内で流通する、グリンデルワルトの所属地・ベルン州の人間をからかう小噺で代用してみよう。

「コーヒーを注文したんだけど、なかなか来ないんだよ。困っちゃうなあ。さっきから脇の植え込みの蔦がどんどん伸びてきちゃって、ほら、ボクに絡まっちゃってもう身動きができない。助けて……」
 あまりにもグズで、何をしようにもなかなか物事がはかどらないというのが、スイスの他地域の人たちからのベルン州人に対する評価である。言っちゃなんだが、確かにその通り……のような気がしないでもない。これもまた、あなたの実感ではいかがですか??
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 ここでスイス各地について、そこの特徴と言われている気質や性質、あるいはジョークを挙げてみよう。それにしてもあの狭い場所に、よくまあこれだけ沢山のタイプがあるものだと感心する(谷ひとつひとつで違うんだろう、おそらく)。もちろん、そこの出身だからと言って本当にそういう性格とは限らないので、ご注意を。
ベルン:のろま、グズ、非常に保守的。おっとりしている、誠実、面倒見がいい、冷静(冷静なのは単に反応が鈍いだけという説あり)
チューリヒ:軽薄、お調子者、セカセカしている。派手好き、先進的、気さく
アッペンツェル:「じゅうたんの端から飛び降り自殺できる」(チビということ。実際にチビかどうかはともかく、アッペンツェルの家屋は極端に天井が低く、小さい)
グラウビュンデン:陰気、おしゃべり(??)。ドイツ語を話すイタリア人。辛抱強く、気が良い
とある州:「指が長い」(泥棒ということ。その州の名誉のために名は秘す)
ルツェルン:知ったかぶりをする。良くも悪くもクールでそつがない
独語圏ヴァリス:お金にセコい、ケチ。根気強く、各界で名を成すタイプ
仏語圏ヴァリス:猜疑心が強いが、根は優しい。自慢が多い
フリブール:きったない(街が汚いということらしいが、これは気質?)
ジュネーブ:スイス人ではなく、フランス人
ティチーノ:スイス人ではなく、イタリア人。子だくさん
日本人のスイス人に対する評価:物静か、重厚な気質、忍耐心がある、子供の躾が厳しい、親切、働き者。閉鎖的な気質
ドイツ人のスイス人に対する評価:粗野で騒がしい、軽薄、軟弱で我慢が足りない、子供を甘やかしすぎる、下品。親切でにこやか、働き者、寛容、(ドイツ人より)開放的、などなど

あるドイツ人いわく:「スイス人はドイツ人とイタリア人のちょうど中間」(筆者もまったくそう思う)

 最後に、スイス人全体についてのジョークをひとつ。これも元来はドイツ人がスイス人をからかって作った小咄らしいが、スイス人も気に入っているのか(?)あちこちで引用されているのを見るので、御存知の方もいらっしゃるかと思う。
神はスイス人をお創りになった。
「さてスイス人よ、今何か欲しいものはないかね?」
スイス人は答えた。
「山」
神は山をお創りになった。
「さてスイス人よ、他に何が欲しいかね?」
スイス人は答えた。
「牛」
神は牛をお創りになった。スイス人はさっそく牛からミルクを搾ると、器に注いで神に差し出した。神がミルクを飲み干すと、それはたいそう美味しかった。
神は満足しておっしゃった。
「スイス人よ、他に何か欲しいものは?」
「お代を」
ムルテンで出会った、ジュネーヴからやって来たという3人連れ。フランス語圏の人々、特に女性は、なんとなくドイツ語圏の女性より優しい感じがするのだが、気のせい?

もっとも、ドイツ語圏スイスの女性も、同じ言葉を話す隣国・ドイツの女性たちと較べると、はるかに柔和で人当たりがいい。これはドイツ人も認めているところ。筆者が教わっていたドイツ語の先生によれば、ドイツの女性は第2次世界大戦直後の復興期を境にキツくなってしまったそうだ。先生曰く、
「戦後同じような苦労をしたはずの、日本の女性がキツくないのが不思議」

    

    

筆者のツェルマットの思い出:
その時は両親プラス叔父が一緒の4人連れ。電車を待ちがてら入ったカフェで甘いものを注文し、筆者はお手洗いに入った。すると、そこのお手洗いは換気扇のダクトを伝わって、厨房の会話がよ〜く響いて来るのだ。筆者は当然耳を澄ました。
 「りんごクレープとコーヒー4人前ね」
 「今の日本人?じゃあ少なめにした方がいい?」
 「いや、普通でいいワ」
別にどうってことない会話だが「ふんだくるツェルマット人」という先入観を植え付けられていたので(左本文参照)、妙に印象に残ってしまった

写真はツェルマットの観光目抜き通り

    

    

スイスに住む筆者の友人に言わせると、
「ご覧なさい、なんて暗い顔立ちをしているんでしょう!」
……となってしまうグラウビュンデンの人々。しかし、筆者の実感から言っても大体の人は快活で、しかも猛烈なおしゃべり。話がエキサイトして来ると、相手に向かって上半身を乗り出し、顔をグイグイ押し付けるような感じで喋りまくる人が多くて、圧倒される。
ちなみにハイジやペーター、ウルスリにフルリーナは皆グラウビュンデン人

    

    

いかにもスイスらしい可愛いカフェテラス。こういう所はたいてい店員さんも感じが良く、サービスを受けた多くの日本人は
「やっぱりスイス人ってとても働き者で親切だなあ」
と思うだろう。ところが、あなたがスイス人と信じて疑わないその人は、案外ドイツ人やオランダ人だったりする。真夏や真冬のハイシーズンに観光地のホテルやカフェで働く人たち、特に若者の多くは海外から来たアルバイターだ。かのスイス・ホスピタリティーを支えているのは、実はこういう人たちかも

    

    

5. Dez. 2004