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窓辺の花はなぜきれい?
 ヨーロッパでは観光地に限らず普通の住宅地でも、窓辺を花で美しく飾っている家が多い。中でも特にスイスは際立っていて、たとえばドイツのフランクフルトからバーゼル経由の陸路でスイスに入ると、家の窓辺の飾り具合でどこが国境線か判別できるくらいだ。

 最近は日本でも、スイスのように窓辺をゼラニウムやペチュニアなどの花で飾る家が増えてきたが、まだまだ歴史(?)が浅いせいか、花の咲きっぷりはイマイチというところが多い。筆者の家もご多分に漏れずそんな中の一軒だ。

 そこでさっそくスイスの秘訣に習おうというわけで、日本在住経験のある主婦・クリスティーヌさん(以下Cさん)に尋ねてみた。
     

筆者:まず最初に聞きたかったんですが、なんでこんなに花を飾るんですか?

Cさん:それはもちろん、素敵だからよ!

筆者:でも、これだけ家があれば、花なんて興味ないような人もいると思うんですけど、なんでこんなにきれいに揃うんでしょう。
Cさん:そうね、たしかに義務でやっている面もありますね。家や町を美しくするために花を作るのは、食事の支度や洗濯なんかと同じ、家事のひとつになっているんです。スイスでは花の手入れは学校の家庭科の授業で習います。昔は女の子だけだったけど、今は男の子も習うわよ。
筆者:でも、面倒くさがる人もいるんじゃないですか?
Cさん:そこから先が日本とスイスの違いが出てくるところかもしれないわね。こっちでは、皆がきれいに窓辺を飾っている中で、1軒だけそうしない家があったら、絶対に近所の人からすごい勢いで苦情が来ます。通り掛かりの全然知らないオジイサンなんかがわざわざ注意しに来たりするようなこともあるわよ!とにかく日本人と違って、こっちの人は気になる事があると見て見ぬフリができないんです。
筆者:それじゃ頑張らないわけにはいきませんね……では、今度は花をきれいに咲かせる方法についてお聞きします。
Cさん:はい、どうぞ。
筆者:以前、スイスを紹介したテレビ番組で「スイスの花は、飲み残しのビールを毎日やっているからきれいに咲く」と言っていましたが、本当ですか?
Cさん:う〜ん、確か私もそんな話をきいたことがあるけど、あまり関係ないと思うわね。だいたい日本でそれをやったら虫がたくさん来ますよ!ほかにコーヒー殻をまいたりする人もいるけれど、まあオマジナイみたいなものね。
筆者:日本とスイスでは土や水質が違うというのも、日本で窓辺の花がきれいに咲かない原因だと思うのですが、どうでしょうか?
Cさん:ああ、それは間違いないわね。それに日本は蒸し暑くって、どうしても風通しの悪い根元なんかが腐りやすいみたい。私が日本にいたころ、スイスと同じようにやってもなかなか上手くいかなくて困ったわ。下のほうの葉っぱがすぐに黄色く痛んで、だんだんハゲになっちゃうのよね。でも、そのうちにいい肥料などわかって来て、うまく行くようになったわね。
筆者:ズバリ言って、クリスティーヌさんなりのきれいに花を咲かせる秘訣を教えて下さい。
Cさん:花の苗を植えて、大きく育ててきれいな花が咲き始めるまでの、最初の段階というのは意外に簡単なんですよ。問題は花が咲き始めてから、いかにきれいな状態で株を保ち続けるかということね。私の義母(日本人)もそうなんだけど、日本の人はこれがダメなのよ。春に植えて、梅雨明けくらいまでは立派に育てられるんだけど、そこからの手入れがいけません。
筆者:いよいよ肝心なところですね。
Cさん:まず、ゼラニウムにしろペチュニアにしろ、その他の花も、咲き終わってしぼんだ花はすぐに摘み取って捨てること。黄色く枯れてきた葉っぱもね。それをひとつひとつ毎日毎日するのよ。「毎日」というのが肝心よ。それだけで全然違います。しぼんだ花が干からびてくっついているのはとても見苦しいし、種ができるので、栄養が次の花に行かなくなるの。
筆者:ゼラニウムは小さい花が沢山つきますけど、あれもひとつひとつ摘むんですか?
Cさん:そうよ。それで一房の最後の花が終わった時点で、根元から茎を折って捨てるの。
筆者:それってかなり大変では……
Cさん:大変よ。だから家庭になにか起こったりすると、たちまち花の手入れが悪くなって、近所にも一目瞭然というわけ。ここ(ベルン)は都会だからそれほどでもないけど、小さな町だとたちまち噂になって、ちょっとイヤね。
   

 この会話はCさんの家のバルコニーでなされたが、筆者と向き合って話をしている間じゅうも、彼女の手はすぐ脇のペチュニアのハンギングに伸び、花殻を探す仕草を続けていた。習慣というよりは、もうすっかりクセになっていて、無意識のうちにそうしてしまうようだ。

 筆者はふと、以前読んだこんな小話を思い出した。
    

英国を旅行中のアメリカ人が、ある館で庭師に尋ねた。
「こんな素晴らしい芝生の庭園を作るにはどうしたらいいんですか?」
庭師は言った。
「まず、芝の種を蒔いたら水をやって、あとは時々手入れをするだけで、100年もすればこうなるよ」

   
 スイスの窓辺の花も、それに近い世界なのかも……

考えてみたら、窓辺の花の写真なんて滅多に撮ったことがなかったので、たいして良いものは紹介できないのだが……
まずは典型的な観光地式アレンジ。遠くから見た時の見栄えを重視するせいか、色の数も多く、どうしても派手になる。特に、ヴァリス州のドイツ語圏はスイスでも一番派手な地域なのではないかと思う。
写真はサース・フェー。

     

ぐっとシックなこちらはグラウビュンデン州アンデール。色遣いだけでなく、扉の曲線やスグラフィットの紋様とうまく調和した構図感覚がなかなか。ここの家の人は洒落たセンスの持ち主のよう

     

都市部の住宅地では、おとなしい色を使ったり、グリーンを多用して上品に仕上げたアレンジが多い。他人の目を喜ばせるためというよりは、住んでいる人が自分で楽しむために植えているのだろう。写真はバーゼルにて

  

花ならぬ野菜の植え込み。緑の微妙なグラデーションは鑑賞用としても十分美しい。
土壌の薄い山間部では、良い土とその栄養分が流出してしまわないよう、写真のように木などでしっかり枠をつくり、その中で丁寧に野菜を育てる。アンデールにて

    

これはすごい!高さ10mくらいの急崖をコンクリートブロックで覆い、隙間にありとあらゆる種類の花やハーブが植えてある。崖の補強と壁面美化で一石二鳥というところか?地震のある日本では恐くてちょっと真似できない。ヴァリス州シュタルデンにて

    

アルプ(牧草地)のお花畑の話。標高2000mに満たないアルプに咲く花は、わざわざ種蒔きして作っていることも多い。
牧草地用の花の種(Wiesenblumen ヴィーセンブルーメン)は、都市部のスーパーなどでも小袋が容易に手に入る。関東地方だったら9月上旬、適当に耕した土にバラバラっと蒔いて薄く覆土すれば、翌年5〜6月には日本の自宅にスイスのお花畑が……!エーデルワイスの種なぞ買わず、こちらをぜひお試しあれ。
種の解説には「春蒔き」と書いてあるが、日本では寒冷地以外は秋蒔きの方が良いと思う。

       

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