目次へ ホームへ
▲前のページへ ▼次のページへ
ベリンツォーナのレーティシュ鉄道
 レーティシュ鉄道、略称RhBは、クールからグラウビュンデン州各地を結ぶ、スイス最大の私鉄だ。こう言われてピンとこない人も、氷河特急にベルニナ急行ですよと聞けば「ああ、あの赤い電車」と思われるだろう。その鉄道会社である。

 ダヴォス、アローザ、サンモリッツなど東スイスのリゾート地をつなぐ鉄道会社のイメージが強いRhBだが、実はアルプスの南・ティチーノ州の州都ベリンツォーナから出る線もあるという。ベリンツォーナから北東方向に伸びるメゾルチーナ谷(モエサ谷)を通る、ベリンツォーナ-メゾッコ線。

 なんだ、クールとベリンツォーナを結ぶ特急郵便バスが走る、国道13号線に沿った地域ではないか……
 

 バスでヒンターライン側からアルプス越えのトンネルを抜け、リゾート地・サン・ベルナルディーノを過ぎると、道路は強いカーブを描きながら、左右から急峻な断崖の迫るモエサ川の谷底に向け、一気に下り始める。

 やがてバスは谷底の鄙びた村・メゾッコに到着した。バスの停車場は村の中心部から少し外れた広場。「あれ、郵便局前に停まるんじゃないの?」と思ったら、なんとバスの足下にいきなり線路が!しかし、よく見てみるとこの線路、延長数10m程度で前もうしろも途切れている。どうやら既に廃線になっているものらしい。

 事前に下調べも何もしていなかったため、メゾルチーナ谷の鉄道について、筆者はほとんど何の知識もない。そこで、停車場のすぐ近くにある雑貨店に入り、そこの御主人に尋ねてみると、やはりこれがベリンツォーナからの鉄道の跡だという。

「いつごろ廃止になったんですか?」
「もう30年くらい前かなあ……線路の前に建物があるだろ?あれが昔の駅だよ。鉄道はこの村まで来ていたんだ」
「この村が終点ですか?」
「そうだよ」
…………

 Alpen-Sudの炎天下、雑貨店で買ったアイスキャンディーをかじりながら、廃線となった鉄道の痕跡を歩いてみた。このページの右にそのときの様子を解説している。


 廃線とは言っていたが、その後日本に帰ってから調べてみると、実際にはベリンツォーナからカマという町までの区間16kmが現在も貨物線として生きていることになっているらしい。実際、カマから先は線路が敷いてあり、さらに先に行くと架線に踏切まで残っていた。線路にはそれほどサビも浮いておらず、時折は利用されているような感じ……とは言っても、RhBベリンツォーナ-メゾッコ線は1990年代に大口の輸送契約を失ってしまい、これから先の見通しは不明だという。
     
RhBベリンツォーナ-メゾッコ線
ティチーノ州ベリンツォーナからグラウビュンデン州メゾッコ

総延長 31.3km
軌道の幅 1000mm
最大勾配 6.0%
カーブ半径最小 80m
電気システム 直流/1500v
---------------------------------------------
1907年「ベリンツォーナ・メゾッコ電気鉄道(BM)」開業
1942年 BM、RhBと合併
1972年 旅客輸送廃止、貨物のみの営業へ
1978年 カマ-メゾッコ間完全廃止


  
メゾッコから廃線跡を歩いてみたい方は……

地図:スイス国土地理院地形図1:25,000 MESOCCO (Blatt 1274)
鉄道の施設を地図で確認したい場合は更に GRONO(1294)、PASSO SAN JORIO(1314)、BELLINZONA(1313)参照

 メゾッコの郵便バス停車場/鉄道駅跡(このページ冒頭の写真)から、南に向かって100mほど舗装道路を歩くとハイキング用の黄色い標識が出てくるので、その中のSoazza ソアッツァという表示に従って、軌道跡に入る。隣村のソアッツァまではゆっくり歩いても1時間少々といったところ。明るい森の中のハイキングコースだ。

 ソアッツァから軌道跡はおおむね車道と並行して走るようになる。夏はもろに太陽光にさらされ、ここから先、徒歩でたどることはあまりお勧めできない。筆者もソアッツアからベリンツォーナまではローカルの郵便バスを利用した。

 ローカルのバスにはサン・ベルナルディーノ始発とメゾッコ始発の2種類があり、両方合わせて1時間に1本程度の頻度で出ている。地域の人口密度から考えると随分便利にできているが、これは写真解説でも述べたように、廃止された鉄道の代償なのだろう。バスは律儀に鉄道跡に沿って走るので、集落ごとに残る駅舎や各種設備を見るのにちょうどよい。

   
筆者から鉄道好きの皆様へお願い:
残念ながら私は鉄道のことに詳しくありません。用語などにおかしい部分があったらぜひお知らせください。
もちろんRhBベリンツォーナ-メゾッコ線に関する情報もお待ちしています!
メールはこちら

メゾッコの村外れにある停車場。現在は郵便バス(特急・ローカル)が発着している。中央の建物が昔の駅舎。メゾッコからベリンツォーナまでの間、このような駅舎が今でも所々に残っている

       

メゾッコからベリンツォーナ方面に向けて、軌道跡を歩き出す。脇には立派な排水溝が(写真はメゾッコ村をふり返ったところ)

     

ほぼ100mごとに設置してあるキロポストらしきもの。今でも手入れは定期的にしているようだった

    

メゾッコを出てから30分ほどで橋にさしかかるが……

     

下から見ると、有名なラントヴァッサー橋のミニ版といったところでさすがRhB。ここから先、このような橋がいくつか登場する

      

せいぜい15mくらいのトンネルだが、ずいぶん頑丈そうな造り

    

メゾッコの隣村、ソアッツァ。写真ほぼ中央の建物が駅舎。ここから先も、集落ごとにこのような駅舎や、ときには機関庫が残っている

    

ここから先はメゾッコ始発のローカル郵便バスで移動。ローカルバスは国道を通らず、終点のベリンツォーナの近くまで律儀に鉄道跡に寄り添って走る。たぶん廃止された鉄道の代替便なのだろう。
カマの集落からは線路が、もう少し先に行くと写真のように架線も登場する

     

ベリンツォーナまであと少し、カスティオーネでSBBゴッタルド線と並行するようになる。実質的にはここが終点。放置された車両が痛々しい

    

▲前のページへ
▼次のページへ
目次へ
ホームへ