スイスからちょっと足を伸ばして
フランクフルト・ブックフェア
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 毎年10月、ドイツのフランクフルト・アム・マインで、世界各国から出版社・出版人が集う巨大な本の見本市「フランクフルト・ブックフェア」が開催される。

 本の見本市と銘打つからには、全世界のありとあらゆる出版物を手に取って見られるのはもちろんだが、アートや工芸、教材に文房具など、まあ一応出版に関係があるか……というようなジャンルの出展も多い。有名作家や文化人、アーチストたちの姿もあちこちで見られる。実際には見本市と言うよりは、さながら世界一周・巨大文化祭とでも表現した方がふさわしい一大イベントだ。 東京でも毎年一応「東京国際ブックフェア」というのが開かれるが、とてもじゃないが比較にならない。

 さて、この種のイベントというと、通常はその業界の人しか入れないイメージがあるが、実際には名刺か学生証さえあればほぼ誰でも入場が可能である。しかし、なぜか毎度日本人の姿はあまり目立たず、「いかにも」の業界関係者しか見かけないのが不思議。他の国からのお客たちの中には、どう見ても観光客という人も少なくない。また、学生の姿もずいぶん見かける。興味をお持ちの方はぜひ訪れてみてはいかがだろうか
(学生にはちょっと難しい時期か……)

 会場は広大なフランクフルト・メッセのほぼ全域を使い、開催国ドイツの展示ホールのほか、欧米諸国、アジア、アフリカ、オセアニアと、文字通り世界中の主な出版社がブースを並べる国際展示ホール、芸術などの専門展示ホール、文化イベント会場などに分かれている。中庭には屋台風雑貨マーケットまである(これは年間通して常設)。これらを全部見るには最低でも2日はかかるが、1日でなんとか……という場合は、入口で会場案内を受け取ったらすぐにお目当ての場所をチェックし、優先順位をつけてから回るといい。

 ここで、出版業界人でない方・語学にあまり堪能でない方でも楽しめそうなビジュアルブックを中心に、筆者のおすすめ展示をざっと紹介してみよう。

まずはなんと言っても国際展示会場

 なにぶん出展者が多く、大ざっぱに大陸・文化圏別にいくつかのホールに分かれ、更にその中でこれまた大ざっぱに国別に分かれている。

 なんと言っても優先度トップはイギリスとアメリカの展示会場。なんのかんの言っても英語圏の出版物の水準は世界一。イギリスの素晴らしい絵本や、工夫を凝らして面白く作られたアメリカの学校教材(英語がわからなくても理解できる、さすが多民族国家!)、世界中の愛好者に向け、工芸的に製本された美術書などを見ていると、本当にため息が出る。

 スペイン(……と南米スペイン語圏)も意外に面白い。ここも英語圏と少々事情が似て、南米という複雑な大市場を抱えているためか、多少の言語的境界を乗り越えられるよう、ヴィジュアル面に配慮された本や新聞が多い。また、美術書や中世絵入り写本の復刻版など、工芸性の高い本も面白いものをたくさん出している。

 中東やアフリカなど、日本では普段あまり目にすることのできない国の本も興味深い。筆者のおすすめはイランの絵本。さすが!というような繊細な色彩の、美しい本は本当に目の保養になる。

 日本を含むアジアもまた、なかなか興味深い。近年躍進著しい中国の出版物には、オリジナリティある面白いものが結構見つかる。アート面での水準の高さを感じさせる韓国も必見。日本の出展を見れば、日本の出版のどのような所に世界が注目しているのかがよくわかる(案外Mangaだけでもない)。

お土産もみつかる専門書コーナー
 今度は各種専門書のコーナーを見てみよう。

 放っておくと見のがしそうだが、ちょっとのぞいておきたいのが医療関連出版のコーナー。欧米ではお医者が患者に病気や治療方針の説明をするために使う、いろいろなパンフレットや本、図説の出版が盛んだ。その本というのが、立体絵本仕立てになっていたり、電子ブックだったらクリックひとつでどんどん体の中へ入っていくSF調になっていたりと、普通の人が病気を容易に理解できるような工夫が各所に凝らされていて、素晴らしい出来栄えのものばかり。実はこの種のビジュアル病気解説本、日本でも翻訳出版されているはずなのだが、実際に使われているのだろうか?

 地図の展示会場も面白い。美的にデザインされた紙地図やテーマ地図の類だけでなく、注目したいのがオンライン地図(もしくは電子地図)。画面の見せ方を工夫し、方向オンチの人でも理解しやすい道路地図、時間と空間を自在に行き来できる歴史アトラスなど、目からウロコの面白いものばかり。
(こういうのハザードマップに応用したいんだけどなあ……)

 興味のありそうな分野をあちこち回ったら、最後にアート関連の専門展示コーナーへ来るといいだろう。ここでは展示だけでなく、カード類やアート雑貨のような小さなものを即売をしているブースも多い。面白いお土産を探すのにうってつけ。更に、日本で見たこともないような面白いモノがあったら、出展者と話をつけて、あなたが日本での販売代理店になったり、あるいは個展/共同展をもちかけてみては?

 そう、国際展示・専門展示を問わず、若い作家やアーチストが自分を売り込むために個人やグループで出しているブースもある。以前に較べるとだいぶ減ってしまった感もあるが、時々妙に面白いものがあったりするので、こちらも注目しよう。

★ ★ ★
 この項で展示品の紹介を長々と書いても意味がないので、ざっとかいつまんで紹介した。

 日本ではしばしば「日本の印刷技術は最高」「日本の出版水準は世界一のレベル」というような事が俗に言われるが、とんでもない。世界にはまだまだ見るべきものがたくさんある。

 出版関連の仕事をしている方なら、日常の場所からちょっと離れて、自分の置かれた位置を改めて客観的に確認するために。何か面白いものを探したい方は、好奇心を新たに刺激するために。ぜひ一度、機会を作って訪れると良いだろう。


フランクフルト・ブックフェア Frankfurt Book Fair
(フランクフルター・ブーフメッセ Frankfurter Buchmesse)
2006年は10月4日〜8日の5日間開催
会場:フランクフルト・メッセ
(フランクフルト中央駅よりトラムで10分程度。歩いても15分くらい)
公式ホームページはこちら
期間中は宿泊施設の予約が大変取りにくい。ご予約はお早めに。

入場登録・チケット購入は当日でもOK。名刺や学生証を用意すること。業種により入場料金や受けられるサービスに若干違いがある。

数日間かけて見物するなら、フランクフルト近郊の交通機関フリーパスつき「コンビ・チケット」が便利。近郊と言っても、ヴィースバーデンやマインツのような所までフリー区間になるので、観光にも使える。

最終日は会場が巨大書店に
見本市最終日は、出品された本の大部分が売りに出され、会場は巨大な本屋に早変わりする。この日は一般市民の入場者も多く、人気のある出版社のブースでは文字通りの肉弾戦が展開する。実際に参戦した筆者の友人によれば、その様子は「漫画に出てくるバーゲン会場のシーンとプロレスの場外乱闘、それにバナナのたたき売りを足して3で割ったような……」とか。友人はそこで絵本や可愛い雑貨類を大量に購入したり貰ったりして、郵便小包を3つも出したそうな。そう言えば、昔ドイツの国際小包は結構安かったが、今はどうかな?
フランクフルト・メッセ正面入口。ここで開かれる見本市は、文字通り世界最大規模のものが少なくない。このページをお読みの方の中にも、仕事で訪れたことのある人は多いだろう。
いちばん賑わっているのは、なんと言っても地元ドイツの展示会場。ブースも巨大で華々しい。夕方になるとワインやつまみものが各所で飛び交い、完全にお祭り気分である。

さて、
進んでいると思われがちなドイツのブックデザインだが、実際には英米もののコピーが多いのよ(^^;)。ただし、日本では「製本に金がかかる」だの「本屋が面倒臭がって置いてくれない」だのと敬遠される、凝った造りの本も律義に流通させているから立派。
ここ数年ブーム状態なのが、中世絵入り写本の復刻版。普通の写真製版による廉価普及版から、羊皮紙に特殊印刷した超豪華版までさまざま。ヨーロッパのものだけではなく、トルコやペルシア、インドの細密画本の復刻も素晴らしい。
「これは弊社だけが○○と特約で扱っているものです。お探しの資料はまさしくこれだと思いますよ」
「ああ、ぜひ詳しく拝見したいですね」
「××様は日本から?東京ですね。後日弊社の者を伺わせましょう」

大きな取引は見本市に関係なく通年続けられ、ここは「やーどうもどうも」イベントの色合いが濃いが、過去に話題になった企画の中にはこの会場で偶然発掘されたものもある。
埋もれた宝を探すエージェントや出版人たちが今日も本の海をゆく。
日頃普通の書店では扱われないような超マイナー出版社(者)や団体の出展も注目。写真はクルド民族の出版展示コーナーで購入した「クルド歴史アトラス」。いずれ仕事の資料として使う日が来るかも。

メッセ中庭の屋台風雑貨マーケット。キッチュなものからかなり良いものまで、扱っている品物は様々。ここの出店権は不動産屋さんから買ったり借りたりするそうで、一見軽そうな外見とは裏腹に、中身はかなり気合いが入っている。
フランクフルト・メッセのお食事事情を。
メッセ内にはいくつかレストランがあるが、この手の施設の例に漏れず「まずい・高い・ブアイソ」の三重奏である。アメリカ人ですら「あそこのメシは最低」と言う始末。

しかしありがたいことに、ドイツには文句なく美味いソーセージがある。中庭の屋台からただよう香ばしい煙に誘われたら、ビールとソーセージ、それに揚げたイモをゲットし、緑の下でランチを取ろう。ソーセージはフランクフルターよりも荒挽きタイプのチューリンガーがおすすめ。
(昔はドネルやサンドイッチの屋台もあったんだけどなあ……今はなくなっちゃった)

各展示ホールにはアイスクリームや生フルーツジュースのミニコーナーもある。これはアタリハズレなくGood。
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21. Mai 2006