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ベルンという街の使い方
「スイスの首都はどこでしょう?」
「ジュネーブっ!」
「違います。正解はベルンです」

 小学生の頃、友達どうしでクイズをして遊ぶとき、この「スイスの首都」というのは「アメリカの首都」と同じくらい正解率が低かった。同じ国の中に、ほかに国際的に名前の通った大都市があるので、影が薄いのである。ベルンっ子自身もそのへんはよく意識しているらしく、当地のジョーク絵はがきにはわざわざ
Bern, Welthauptstadt der Schweiz
(ベルン、スイスの世界中心都市)
と書いてあるものがある。これはまた「ベルン、スイス世界の中心都市」という意味にも読めるようになっているのがミソである。

 ベルン Bern は10年くらい前までは、あのグリンデルワルトがすぐ近くなのに、なぜ?というくらい、日本人観光客の出現率の低い町だった。真夏の観光シーズンでも、見かける日本人といえば地元在住の人か、ジュネーヴやチューリヒ、あるいはドイツあたりに住む日本人くらい。

 だからといって、このベルンの街に見る価値がない、などは思わないでほしい。チューリヒ方面から列車でベルンに向かうとき、ベルンの駅の手前で列車がアーレ川にかかる高い鉄橋を渡るその瞬間、左の車窓に見える風景をぜひ見ていただきたい。冷たいエメラルドグリーンに輝くアーレ川から屹立する丘の上に、淡い灰緑色の砂岩の壁・赤い屋根瓦の家々がびっしりとしがみつき、中央にはひときわ高い、大聖堂の塔。遠景の青空にふわりと浮かぶ、白いベルナーオーバーラントの峰々。とにかくこれを見たら、誰だって列車を降りて、街の中に踏み込んでいきたくなる(筆者とこの街の最初の出会いもそうだった)。

 何年か前に、ベルン旧市街全体がユネスコの世界遺産に登録されて以来、日本人の観光客はやや増えてきたようだが、筆者が思うに、まだまだもっと多くの人に見てもらいたい街である。そこで、この街について、高尚な解説は市販のガイドブックにゆずるとして、ちょっと現実的かつ即物的だが、観光の参考になりそうなことをいくつか挙げてみよう。

最大の魅力なにもかも渾然一体の不思議
 街全体がユネスコの世界遺産になってしまうくらいの、古きよきベルン……だが、実際に中を見て驚くのは、古い器(建物)の中身は、見事なまでに現代だということ。15〜16世紀に建てられた古い家屋の中に一歩踏み込むと、あるものは現代スイスデザインを見事なまでに体現したブティック、またあるものはアジアの匂い濃厚な雑貨店。中には、1歩踏み込むだけで「失礼しましたあっ!」と逃げ出すような、よろずサブカルチャーの店(要するにオタクの店)なんていうのもある。あのミグロも、ベルンでは古い建物の中にきっちりと納まっている。もちろん、伝統技能の工房や、格調高い老舗の菓子舗などというのも健在だ。それにしてもこの街の新旧一体ぶりは見事なもので、むしろこうやって常に新しい生命を取り入れて、古いものを生き永らえさせて来たのだろうと思う。

雨に強い
 ベルンの旧市街のほとんどの通りは「ラウベン」という、歩道が建物の一部に組み込まれたアーケード状の構造になっており、雨や雪の日もまったく傘をささずに観光や買い物ができる。

ベルナーオーバーラントから近い
 トレッカー御用達のベルナーオーバーラントに滞在するのなら、この街を利用しない手はない。1時間に1本ある列車で、インターラーケンから1時間足らず、グリンデルワルトからでも1時間45分程度で来ることができる。雨にやられて今日は休息、などという日にはぜひどうぞ。また、ベルンは毎週木曜日にアーベントフェアカウフ Abendverkauf (ショッピングの夕べ)と言って、夜8時〜8時半くらいまで店が開いている。この日は午前中軽めのハイキングをしたあと、午後の列車で街に出てくるのもいいかもしれない。

店が多い
 人口たかだか12万ちょっとの街に、よくもまあこれだけ……というくらい沢山の店がある。あの店はみんな、本当にちゃんと経営が成り立っているのだろうか??しかも、狭いエリアに多くの店舗がびっしりとひしめき合っているので、チューリヒやジュネーブのように、歩き回るだけで疲れるということもないし、短い時間で効率的に買い物ができる。街の構造のせいで、売り場面積の小さい店が多いものの、有名ブランドから、有名無名の工房ショップ、ちょっと変わった雑貨屋まで、あれこれのぞいて掘り出す楽しみは、ここベルンが一番。一部のガイドブックでは、ベルンにはあまり目ぼしい店はないというようなことを書いているが、それはウソだ。
 ちなみに、ベルンに多い小規模店はなんとなく敷居が高く、入りにくいと思われがちだが、そんなことは全くない。ドアを開けたときにさりげなくひと声挨拶すればそれでOK(ハローでもグーテンタークでもコンニチハでも何でもいい)。 見るだけの客、しゃべるだけの客でも、イヤな顔をするような店員は滅多にいない。むしろ彼らはそれをネタに 、家族や友人と「今日はこんな日本人が来て面白かったけど、どうしてあんなに英語がヘタなんだろう!」といった調子で話題にして、日々を楽しんでいたりする。
(追記:ベルンの個人商店の多くは、土曜の午後、日曜、さらに月曜の午前中もお休みになる。また、目抜き通りの店でも、今でもばっちり昼休みを取る店が多いので注意しよう)

道に迷わない
 東西に細長いベルン旧市街は北・東・南の3方をアーレ川に ぐるりと囲まれ、残る西の端は国鉄駅にぶつかるようになっている。街の大きさはせいぜい1000m×500m程度。しかも街路はほぼ碁盤目になっていて、道に迷いたくてもなかなか迷えない構造になっている。方向オンチの人が気をつけることといえばせいぜい、時計塔 Zeitglockenturm と牢獄塔 Koefigturm を間違えないように、ということくらいか。

早春のベルン全景

      

ここから先はちょっと目先を変えて、1998年6月にベルンで開かれた民族衣装祭典のパレードの写真を並べてみた。この祭典は毎年、スイスのどこかの町で、会場持ち回りで開催されている

     

ガイドブックなどでおなじみの旗投げ。上空にはトラムの架線……想像通りの事が起こり、この直後にパレードは一時ストップしてしまった

     

精巧な銀細工の装飾品。母娘代々伝わるものなのだろうか

    

おばさん達の衣装はすべて手作り。写真だとわかりにくいが、白い靴下はごくごく細い糸で繊細に編まれた棒針レースだ

     

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